作者:Kira Jane Buxton
ハードカバー: 320ページ
出版社: Headline Review
ISBN-10: 1472268652
ISBN-13: 978-1472268655
発売日: 2019/8/6
適正年齢:PG15(罵り言葉とかあまり上品ではない表現や性的なほのめかしが多いが描写はない)
難易度:上級(文章はシンプルだが、アメリカの社会状況などを追っていない読者にはピンとこないところが多いであろう)
ジャンル:SF
キーワード/テーマ:環境破壊、世紀末、ホラー、ゾンビ、サバイバル、悲喜劇
飼い主の通称「Big Jim」から人間と同様に扱われている誇りがあるペットのカラスS.T.(お上品ではない言葉の略)は、Big Jimの様子が最近おかしいことを心配していた。あるとき彼の目玉が落ち、その後の行動がすっかり変わってしまったのだ。飼い主を治す方法を探しているうちに、S.Tは世界中で何か恐ろしいことが起きていることに気づく。
S.T.が愛する人間たちが、人間らしい行動を取らなくなってきたのだ。
S.T.はこれまで知的に劣っていると見下していたBig Jimの愛犬であるブラッドハウンドのデニスを連れてサバイバルの旅に出る。S.T.は自分をカラスというよりも人間の仲間とみなしているので、野生のカラスを含む野生の動物を馬鹿にしてきたところがある。だが、人間に飼われていた動物を救うクエストの途中で、自分や仲間や世界について異なる見解を持つようになる……。
環境破壊や(それに関連した)疫病の蔓延などで人類のほとんどが死に絶える世紀末SF小説はこれまで数え切れないほどあった。だが、それらはすべて生き残った人間たちの闘いが焦点だった。
この稀なSFの主人公は人間ではない。デートアプリで嘘をついても彼女がみつからないような飼い主のおかげで言葉遣いが徹底的にお下品なペットのカラスである。このS.T.のナレーションで語られる世紀末は、ゾンビものであり、ホラーの部類だ。けれども、S.T.の口の悪さについ吹き出してしまうコメディでもある。
そして、馬鹿にしていたブラッドハウンドのデニスに対して育てていく保護本能にもぐっとくる。
こういったSFが売れるのは、やはり英語圏の若者の間に環境破壊の不安が広まっているからだろう。そう思うと「世紀末SF」というよりも「近未来小説」のように感じて背筋が寒くなるところがある。