思春期の人間関係における権力闘争の構造を認識している者だけが価値を見いだせる小説 Trust Exercise

作者:Susan Choi
ハードカバー: 257ページ
出版社: Henry Holt & Co
ISBN-10: 1250309883
ISBN-13: 978-1250309884
発売日: 2019/4/9
適正年齢:PG15+(性的コンテンツあり。だが主人公が14歳のときから始まるのでその年令も読者層になりえる)
難易度:上級(ただし、書いてあることすべてを信頼しない狡猾な読者である必要がある)
ジャンル:文芸小説
キーワード/テーマ:思春期、高校、演劇、初恋、カリスマ教師、マインドコントロール、力関係、人間関係での権力闘争、ラブストーリー、悔恨
文芸賞:2019年National Book Award小説部門最終候補

身体が性的に成熟し始めるのに、それに心や理解力がついていかないのが思春期の特徴だ。
自分をよく理解できないままに、他者と関わらねばならないティーン・エイジャーたちが集まっている社会(学校)は、一生でこの時しか味わえない強い感情を取り交わせるマジカルな場所であり、そしてそのダイナミクスを知るプレデター(捕食者)の餌になりかねない危険な場所でもある。

だが、人がそれを察するのは、この場所を無事に通り過ぎて何十年もたってからのことだ。そして、多くの人は、時間が経った後でも、あの危険な場所で何が起きていたのかを知らずにいる。それは幸運な人たちかもしれないし、ただの自覚がないプレデターなのかもしれない。

全米図書賞の最終候補になったSusan ChoiのTrust Exerciseの舞台は、演劇やダンスなどのパフォーマンスアートの才能を持つ生徒を集めた1980年代の英才教育高校である。社会経済的に異なる背景を持つ15歳のSarahとDavidは、演劇教師のMr. Kingsleyの授業で知り合い、情熱的な恋におちる。だが、それは小さな誤解から捻れて醜いものに変わる。その背後にある大きな存在がMr. Kingsleyだ。生徒らから憧憬されるカリスマ教師のMr.Kingsleyは、ティーンの子供たちの心理を鋭く読み、彼らに個人的な示唆をする。高校生たちはそれを神の言葉のように理解しようとするが、大人の読者には、若者の精気を吸い取って若さを保とうとしているバンパイアのようにも見える。

読者はこれでこのストーリーが理解できた気分になる。だが、作者のChoiは、一筋縄ではいかないことで知られている。小説のなかばで、また別の「Trust Exercise」が始まるのだ。今度は、Sarahの友人だったKarenのその後の視点だ。自分の体験を元にした小説を30歳のときに出版したSarahのサイン会にKarenはやってくる。もちろんKarenを含めて登場人物は仮名だ。このKarenの語りから、読者はSarahのストーリーにフィクションが混じっていることを知る。だが、どれが真実なのかは不明だ。どちらの語り手も自分に嘘をついてきたのだろうから。

ひとつだけ明確なのは、高校時代の複雑な人間関係と権力闘争だ。誰が誰のマインドをコントロールしているのか、また、その人物をコントロールするのは誰なのか?

そしてふたたび私たちは最後にもうひとつの隠されていた事実を知る。

この小説は、いろいろな意味で哀しいし、切ない。
一番切ないのは、15歳や16歳のときに、あんなに大きな存在であり、自分のマインドをコントロールした人物(たち)が、ほんとうにちっぽけで卑小な存在だと知ることかもしれない。

この小説を嫌いな読者は多いようだ。

たぶん、この本を読んで価値を見いだせるのは、思春期に危険な場所にいることを自覚したか、危険な状況を察知する観察力を持っていた読者ではないだろうか。それ以外の人には、ただのめんどうくさい小説でしかないかもしれない。

だが無自覚でここまで生きてきた人にこそ、できれば読んでもらいたい小説である。

私はよく「大人の男性と未成年の女性の間に本当の恋愛は成立しない」「大人と未成年の性行為は、いかなる場合にも大人に非がある」といったことを書くが、思春期の子供は、彼らの心理を知る大人に簡単にマインドコントロールされるからだ。そして、それを二次的に体験させてくれるのが、こういった優れた小説である。

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