ヘテロセクシュアルの少年とトランスジェンダーの少女との胸がつまる友情と愛の物語 Birthday

作者:Meredith Russo
Hardcover: 288 pages
Publisher: Flatiron Books (May 21, 2019)
Language: English
ISBN-10: 1250129834
ISBN-13: 978-1250129833
適正年齢:PG15(高校生向け)
難易度:中級+
ジャンル:YA/青春小説
キーワード/テーマ:LGBTQ+、トランスジェンダー、ラブストーリー、友情
2019年 これを読まずして年は越せないで賞 候補

エリックとモーガンは同じ病院で同じ日に生まれ、それから毎年、誕生日を一緒に祝う大の親友になった。

けれども、思春期を迎えてからのモーガンは、成長していく自分の身体に強い違和感や嫌悪感を抱くようになっていた。自分が少年ではなく少女だと感じるようになっても、理解ある優しい母親はがんで急死してしまい、フットボールのコーチである父や親友のエリックにはどうしても打ち明けられない。学校で執拗ないじめにあっても、モーガンは誰にも相談せず自分で対応しようとする。そして、心理的な防衛策として、最も愛する者に心理的な距離を置くようになっていた。

エリックはモーガンが変わってきていることに気づいているが、なぜなのか、どう助けていいのかわからない。エリック自身も、父が家族に与える心理的虐待の犠牲者であり、フットボールよりもギターをひいていたいのだが、それが許されない葛藤がある。

強い友情と愛情をいだきながらも、それが何なのか見極めることができないモーガンとエリックは、ときに傷つけ合ったりしながらも18年間ゆるぎない愛を育てていく……。

作者のMeredith Russo自身もトランスジェンダーの女性であり、この小説のモーガンやエリックのように、保守的な南部の田舎町で生まれ育った。こういった町では、フットボールのようにマッチョなスポーツで活躍しない男子は「sissy(女々しい)」といった蔑称を投げかけられ、ゲイだとみなされた少年はリンチを受ける。男として生まれたが心は女だったRussoも殴り倒される暴力を受けたらしい。ゲイですら命の危険がある社会では、トランスジェンダーはさらにカムアウトすることができない。処女作のIf I Was Your Girlが多くの賞を受賞したRussoだが、いまだに命の危険を感じて個人情報をかなり保護しているという。

ネタバレしてしまうが、そのRussoによる、モーガンのエリックのラブストーリーは、胸が苦しくなることはいっぱいあるし、つい泣いてしまう場面も多い。でも、それを乗り越えたらハッピーエンドが待っている。彼女も書いているが、ハッピーエンドにすることにはとても意義がある。

LGBTQ+のYAには悲劇が多い。苦悩を伝えるためには有効なアートであろう。だが、Russoのように、田舎町で誰にも相談できず、自殺を考えているトランスジェンダーの若者にとっては「希望」を与えるYA小説のほうが重要なのだ。「苦しい今を乗り換えることができたら、幸せが待っている」という希望を。

私にもトランスジェンダーの姪がいるのだが、その姪のためにも、こういったハッピーエンドのラブストーリーはもっと出てきてほしいと思った。

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