作者:Holly Black
シリーズ名:The Folk of the Air
1)The Cruel Prince
2)The Wicked King
3)The Queen of Nothing
適正年齢:PG15+(高校生対象だが、性的コンテンツ、暴力シーンあり)
難易度:中級+(文法的には非常にシンプル。ファンタジーの単語に慣れていたら読みやすい)
ジャンル:YAファンタジー
キーワード:妖精、ダークファンタジー、ロマンス
YAファンタジーが流行し始めたころは、その代表的な存在だった「Twilightシリーズ」のように女性主人公には何らかの特殊なパワーがあってもヒーローに振り回されるか弱い存在だった。そのパターンが蔓延した後、強いパワーを持つ女主人公が人気になった。だが、YAファンタジーにはロマンスが必須であり、どんなに女性主人公に力があっても男女関係は伝統的なパターンが多かった。そして、魔力や武力などストレートな「力」を持つ女主人公というパターンもひととおり使いつくされ、今度は「強いけれど脆弱なところもある」という複雑なパターンが求められるようになった。
YAファンタジーが好きだけれど、もっとダークで複雑な主人公を求める読者が歓迎したのがホリー・ブラック(Holly Black)だった。ブラックのYAファンタジーの主人公たちは、善人でもないし、普通のロマンスはしない。
この「The Folk of the Air三部作」は、残酷な妖精たちが支配する国で育った劣等感と野心を抱く人間の少女ジュードが主人公だ。
ジュードが7歳のとき、妖精の王宮の将軍マドックが現れて目の前で両親を殺した。人間の母はかつてこの妖精の将軍と結婚していたのだが、妖精の国から逃亡していたのだった。マドックは、彼の娘である妖精ハーフのヴィヴィアンだけでなく、ヴィヴィアンの妹だが血はつながらない一卵性双生児のジュードとタリンも妖精の世界に連れていき、わが子として育てた。
だが、妖精には人間と同じ感情はない。マドックは武道や戦略の才能があるジュードを将来の戦士として育て、それにまったく興味がないタリンは戦略結婚が可能なレディとして育てる。
タリンは同年代の若い妖精の貴族たちに受け入れられるために何でもするが、ジュードは彼らに反発して執拗ないじめにあう。妖精のいじめは、命を落としかねないほどの残酷さだ。特にジュードをターゲットにするのが先代の王の末息子で、新しい王の弟のカルダンだ。
ジュードは、妖精たちを徹底的に憎みながらも、この世界に受け入れられ、認められたいという渇望を密かに抱いている。策略に長けたジュードは、スパイ組織に入り込み、陰で権力を持とうとする……。
アイルランド伝説の頃から、フェアリーは美しいが残酷だということになっている。美貌と甘い言葉で人間を騙し、おもちゃにして破壊して楽しむ。ホリー・ブラックの三部作に出てくる妖精たちも同様だ。親子や兄弟だからといって暖かい感情的な繋がりもない。美貌もパワーも人間とは比べ物にならない。その中で、ただの人間であるジュードにあるパワーは、「嘘がつける」というものだ。妖精は落とし穴がある表現で騙すことはできるが、嘘はつけないのだ。そして、力がないからこそ、知恵を使う習慣もある。そのあたりが読者として面白いところだ。
また、裏切りや、パワフルな登場人物の予期せぬ死などは、Game of Thrones的展開でもある。
ジュードとカルダンの愛憎がまざりあうやり取りにも緊張感がある。特に2巻の終わりはクリフハンガーだ。
完結編の3巻もページターナーだったが、エンディングは少々都合良すぎると感じた。
それでも読者が投票で選ぶ2019年GoodreadsのYAファンタジー部門でwinnerになったので、アメリカで今年最も人気があったYAファンタジーといえるだろう。
ところで、バーンズアンドノーブルからしか買えない特別バージョンには、2巻と3巻の間にカルダンがジュードに送った(けれども届かなかった)手紙が入っているらしい。出版社と書店のコラボレーションとして、面白い例だと思う(買ってみようかと思ったが、近くのバーンズアンドノーブルになくてかなり送料がかかるので断念)