歴史を変えた過去のパンデミックを理解できるノンフィクションのリスト

複数の国あるいは世界全域という広範囲で大人数の感染者が出る大きなパンデミックは、歴史を振り返ると、政治、経済、衛生観念などを大きく変えるきっかけになった。現在、世界中で渡航制限や「ロックダウン」を余儀なくさせているCOVID-19(新型コロナウィルス)は、すでに多くの国に経済的な打撃を与えており、しかも終焉が見えない。

人々は、怯えながらも、過去のパンデミックから何かを学ぼうとしている。パンデミックに関する本は非常に多いのだが、どれかを選ぶのは難しい。そこで、アメリカでふたたび売れている作品をいくつかご紹介しよう。

それぞれに、時代背景が大きく影響を与えていることがわかる本であり、そこに読み応えがある。

ペスト/黒死病(Plague、Black Death)

ペスト(腺ペスト)は人類の歴史で何度か大流行を繰り返しているが、最も有名なのは14世紀にヨーロッパで人口の30〜60%を殺した史上最大のペスト流行であろう。皮膚のあちこちに出血斑ができ、手足に壊死を起こして黒くなることから黒死病(Black Death)とも呼ばれている。歴史ノンフィクションだけでなく、多くの小説の題材にもなっている。

1978年刊行で1980年に全米図書賞を受賞した A Distant Mirrorは、13世紀に大きく進歩して繁栄したヨーロッパが14世紀になってから経済的困窮、政治の不安定、戦争、パンデミックといった危機を迎えた歴史を振り返るものだ。

天然痘(Small Pox)

天然痘は、古くは紀元前のエジプト王朝から存在したと言われており、後に世界中で何度も流行を繰り返してきた。アメリカ大陸では、スペイン人が持ちこんだ天然痘が免疫のなかったアステカとインカの人々のほとんどを殺し、帝国は滅亡した。天然痘撲滅に貢献した種痘が行われるようになったのは、1721年のボストンでの流行である。当時のボストンは革命戦争前夜であり、種痘の始まりにはボストンの政治も絡んでいた。そのあたりを描いたのが、The Fever of 1721 だ。初期に犯罪扱いされていた種痘が後に世界を救うことになったというのを再確認できて感慨深い。

コレラ/ブロード・ストリートのコレラの大発生(cholera)

コレラのパンデミックは史上7回起こっており、パンデミックまでいかない「アウトブレイク」も起こし続けている。その中でも英語圏でよく読まれているのが、1854年のロンドンでの大流行を語るThe Ghost Mapだ。「ブロード・ストリート(ゴールデン・スクエア)のコレラの大発生」として知られるこの大流行は、公衆衛生の観念を変え、衛生施設の建設を進めた。この大発生の因果関係を突き詰める人々の努力がドラマチック。

スペインかぜ/1918パンデミック(Spanish Flu)

インフルエンザはこれまで何度も大流行しているが、歴史上最も有名なのが、通称「スペインかぜ」と呼ばれる1918年のインフルエンザ・パンデミックであろう。通常のインフルエンザで死亡するのは高齢者や幼児が多いのだが、この1918インフルエンザの場合は若い男性の犠牲者が多かった。その理由としてサイトカイン放出症候群を疑う専門家もいるが、第一次世界大戦での戦場の劣悪な環境が最大の原因だと考える者もいる。

アメリカでよく読まれているのは次の2冊である。

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エイズ/後天性免疫不全症候群(AIDS/HIV)

エイズがアメリカでミステリアスな疾患として話題になりかけていたころ、私は英国留学からいったん戻り、日本の大学病院で看護師をしていた(本職は助産師だったのだが、勉強のために循環器内科を希望したのだ)。暇な夜勤のときに、入院中の大学教授が「興味深い記事がある」とTIMEマガジンの記事を見せてくれたのがエイズについて知ったきっかけだった。その記事を読んでからはカポジ肉腫の患者が入院するたびにナーバスになっていたのだが、医療現場でも当時はエイズについて知る人も、感染を恐れる人もいなかった。

エイズについては、初期には同性愛の男性特有の病気とみなされていて、それが差別や政策の遅れにつながった。そういった初期の失敗をしっかり記している代表作が、And the Band Played Onである。

エボラ出血熱(Ebola)

パンデミックのノンフィクションとして多くの人が真っ先に思い出すのがこのThe Hot Zoneではないだろうか。これによって疫学に興味を抱き、将来を決めたというティーンもいたようだ。それほど衝撃的な本である。私は読んだ後しばらく悪夢を見た。

 

パンデミックの最中にパンデミック本を読むのは気が滅入るものだ。しかし、過去の失敗と成功、それらが与えた長期的な影響を読むと、現在私たちが直面している新型コロナウィルス(COVID-19)について少し冷静に考えることができるようになる。

COVID-19は、過去のパンデミックのように私たちと、私がたちが住む世界を根こそぎ変えるだろう。それが将来の人類にとって良い変化になるのかどうかは、私たちの行動しだいなのだろう。

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