作者:Peter Swanson
ハードカバー: 288ページ
出版社: William Morrow
ISBN-10: 0062838202
ISBN-13: 978-0062838209
発売日: 2020/3/3
適正年齢:PG15+(性的な話題はあるが露骨な描写ではない)
難易度:上級
ジャンル:ミステリ/心理スリラー
キーワード:殺人、古典ミステリ、連続殺人事件、FBI、児童性虐待、ラブストーリー、サイコパス、報復
Malcom Kershawは、ミステリの新書と古書を扱うボストンの書店「Old Devil」の共同オーナーで、ミステリ紹介のブログも書いたりしている。
特に親しい友人もなく、自宅と書店を行き来するだけの平凡な毎日を送っているMalのところに、FBIエージェントを名乗る若い女性が現れた。Malが何年も前に書いた「Eight Perfect Mrders(8つの完全殺人)」というタイトルのブログ記事があるのだが、無関係に見えるいくつかの殺人が、そのブログにリストアップされた8つのミステリに沿ったものではないかと疑っているらしい。
被害者とMalとの間にはほとんど繋がりはない。ひとりだけ書店の常連がいるが、誰からも嫌われてた女性で、Malとそう親しかったわけではない。だが、FBIエージェントは、Malのブログ記事にあるリストと彼自身が殺人と深く関わっていると考えているようだ。
MalにはFBIエージェントには語れない過去がある。そして、連続殺人の犯人が自分の身近にいることも感じている。だが、それが誰なのかはわからない……。
Malが「信頼できない語り手」だということは最初から読者にはわかっている。だが、どの部分が本当で、どの部分が偽りなのかはよくわからない。彼が自分に嘘をついているのも明らかだからだ。
「信頼できない語り手」とかGone Girlで一気に人気が出た「嫌ミス」についてもMalが文中で語るが、最近流行りの「嫌ミス」によくある「驚かせるためにとってつけたようなどんでん返し」はない。最後まで、この本に出てくる古典(現代クラシックも含まれる)のミステリを連想させる展開だった。
この作者はボストンの地元作家で、主人公のMalが利用している図書館ネットワークは私の利用しているネットワークと同じだ。ほかにも生息している場所が重なっているので、架空の人物なのにどこかですれ違っているような気がした。それも私には楽しかった。
Malがブログに書いた8つの作品は次のものだ。
A. B. C. Murders by Agatha Christie
Strangers on a Train by Patricia Highsmith
Red House Mystery by A. A. Milne
Malice Aforethought by Anthony Berkeley Cox
Double Indemnity by James M. Cain
The Drowner by John D. Macdonald
A Secret History by Donna Tartt
これらを全部読んでいる人はあまりいないと思う(私も読んだのは3冊だけ)。特に、くまのプーさんのA.A.ミルンが長篇推理小説を書いていたことを知っている人のほうが少ないだろう。アガサ・クリスティ、パトリシア・ハイスミス、ドナ・タートあたりなら読んでいる人はいるかもしれないし、そうならきっと「ああ、そういう意味か!」とわかる部分が多いだろう。この小説では、それで十分だと思う。興味が出たら、今から読むのもいいだろう。
古典ミステリのネタバレがあることを怒っている読者もいるようだが、これまで何年、何十年と読む機会があった古典がプロットに使われているのを「ネタバレ」と言って怒るのは、ミステリファンとして大変野暮なことである。そういう場合は、怒らずに、こっそり読んで知っていたフリをしていただきたい(😁)