読み返してみて、児童書扱いしたことを後悔した壮大なファンタジー、The Queen’s Thief

作者:Megan Whalen Turner
シリーズ名: Queen’s Thief (2020年10月に第6巻が刊行される予定)
Publisher: Greenwillow Books(初版)
適正年齢:PG12(内容的には一般向けファンタジーだが、性的なシーンはないので小学生でもOK)
難易度:上級(文法的には難しくないが、行間を読める読解力がないと、『信頼できない語り手』の巧みさが理解できないかもしれない)
ジャンル:ファンタジー
キーワード:王国、権力争い、政治、軍事、策略
文学賞:ニューベリー賞オナー

新型コロナウィルス(COVID-19)で、私が住むマサチューセッツでは昨月から外出禁止命令が出ている。私も、1カ月ほど前から、食料品の買い出しと人気がない時間帯を狙っての森のジョギング以外は家にこもりきっている。

ソーシャルメディアでは「こんな時だから読書を」という呼びかけや、それに対しての「そんな気にはなれない」「ポジティブなメッセージはかえってプレッシャー」という反論が出ている。

私は、本人の気持ちが向くほうを選べば、どっちでもいいんじゃないかと思っている。私は本を読み始めた5歳の頃から、嫌なことがあると本の世界に逃げてきたので、今でも変わりなく本を読み続けている。

ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取るために、家族であっても別に世帯を持つ娘とは会えないのだが、Zoomやテキストメッセージで連絡は取り合っている。そのときの話題のひとつが「お薦めの本」である。

あるとき娘が「マミーはQueen’s Thiefのシリーズの1巻しか読んでないの?」と尋ねた。私は娘をアマゾンの家族として登録したので、別々にアカウントは持っているが、私がキンドルとオーディブルで購入した本は彼女も読めるようになっている。そこでQueen’s Thiefの1巻 Thief はみつけたが、2巻以降がないことに気づいたらしい。

「読んだのは随分前だからよく覚えていない」と答えた私に、娘は「2巻からものすごく面白くなるから絶対に読むべき」と熱心にすすめた。そこで1巻から3巻まで一気に読み返して、「わあ、こんなにすごいファンタジーだったのか!」と感動した。そして、これまで見過していたことを大いに後悔した。

このシリーズの魅力の99%は、主人公のEugenidesにある。

Eugenides(Gen)は、1巻の最初のうちは「口先だけで、情けない、ただのこそ泥」といった存在だ。だが、そうではないことが(スローな展開の中で)ジワジワとわかってくる。1巻でも十分「信用できない語り手」なのだが、2巻や3巻になっても、まだまだその「信用できない語り手」ぶりは続く。なにせ、彼自身がどこまで自分を騙しているのか、どこまで自分を知っているのか、そこが読者には微妙に不明なので、ちゃんと驚かせてくれる。

外見も言動も子供っぽさが抜けないのだが、それを目眩ましにして、ひっそりとすごい策略を練っているところも痛快だ。

1巻は展開がゆったりしすぎていて、最初のうち入り込めないかもしれない。でも、Genが本性を出し始めたころからページ・ターナーになる。2巻はさらに驚きがあり、3巻で一応大きな部分が完結して満足感がある。2巻と3巻を読んで思ったのだが、このシリーズは児童書ではなくて本格派のファンタジーだ(残酷シーンもあるし)。1巻がニューベリー賞オナーを受賞したので「児童書」だとみなされていて、多くの潜在的読者に届いていないのが残念だ。

新型コロナウィルスで、現実世界がまるで「ディストピア小説」のようになってしまっている今、すっかり違う世界に旅したいファンタジー小説ファンにお薦めのシリーズである。

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