1960年代のニューヨーク、ブルックリンの黒人コミュニティでのヒューマニティをカラフルに綴る小説 Deacon King Kong

作者:James McBride
ハードカバー: 371ページ
出版社:Riverhead Books
ISBN-10: 073521672X (ISBN13: 9780735216723)
発売日: 2020/3/30
適正年齢:PG15
難易度:新しい10段階レイティングで9(10が最も難しいレベル)、スラングが多いから
ジャンル:文芸小説/歴史小説
テーマ、キーワード:1960年代、ニューヨーク、ブルックリン、黒人、ラテン系、イタリア系マフィア、ドラッグディーラー、犯罪

1969年、黒人とラテン系住民が集まったニューヨーク南ブルックリンの低所得向け公営住宅で、「Sportcoat」というニックネームの老いたdeacon(助祭)が何の前触れもなしに19歳の少年Deemsを銃で撃った。Deemsは、かつて野球の天才児として将来を期待されていたのだが、そのかわりにドラッグディーラーとしての才能を花開かせてしまったのだった。自分が野球を教えた少年をなぜSportcoatが銃撃したのか誰にも理解できなかったが、誰もが理解したのはDeemsが生き延び、Sportcoatの寿命が決まったということだ。

このコミュニティの中心になっているのはSportcoatが助祭を務めるFive Endsバプティスト教会で、アイルランド系の白人警官が彼を逮捕しにやってくるが、誰も警官を助けない。すでに何度も死んでいて不思議がないSportcoatはこの間にも平然と酔っ払って動き続ける。この教会に届く謎の上質のチーズ(白人のチーズ)、引退して結婚したいと夢見るイタリア系のマフィア、そのマフィアの父親と交わした約束を果たして自分の娘と結婚させようとする老人、この教会でかつてシスターだった104歳の老女といった一見何の繋がりもない人々が、Sportcoatによって繋がってくる…。

最初のうちは何が起こっているのか分からず、話に入り込めないので、読むのを諦めようかと思ったほどだった。ところが、登場人物が出揃って、それぞれの味が出てきた頃からがぜん面白くなってきた。

中心になっているSportcoatは、Deacon King Kongというニックネームもあるのだが、教会の司祭を助けるdeaconという役割にも関わらず、飲んだくれで本当にダメな奴だ。ところで、deaconはpriestになる手前の過程らしいが、白人の登場人物たちの間で「deaconって何だ?」という会話が何度か交わされたところをみると、英語でもはっきりしない役柄のようだ。そして、この教会ではもっといいかげんっぽい。

いいかげんといえば、男性の登場人物はほぼ全員いいかげんな奴で、彼らを救っているのがしっかり者の女たちだ。104歳のシスターがマフィアのボスを禅問答のような質問で問い詰めるところとか、笑えるところもたっぷりだ。読み続けると、それらのダメ男たちを含めて、南ブルックリンの住民たち皆が愛おしくなってくる。ダメ男の代表のようなSportcoatでさえ、死んだ妻の幽霊と交わす会話では感情移入してじんわりしてしまう。

作者のJames McBrideは、The Good Lord Birdで2013年に全米図書賞を受賞したのだが、この作品でもその実力を感じた。

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