ソーシャメディアの「インフルエンサー」の実態に苦笑いする女性小説 The Bright Side of Going Dark

作者:Kelly Harms
フォーマット: Kindle版(ハードカバー版もある)
ファイルサイズ: 4551 KB
推定ページ数: 341 ページ
ページ番号ソース ISBN: 1542014115
出版社: Lake Union Publishing (アマゾンの出版社)
発売日:2020/5/12
適正年齢:PG12(露骨な表現やシーンなし)
難易度:中級+(新難易度カテゴリで7)
ジャンル:女性小説/大衆小説
キーワード:ソーシャメディア、インフルエンサー、インフルエンサー・マーケティング、ソーシャメディア疲れ、ロマンス

私は、マーケティングストラテジストでプロの講演者である夫をサポートする仕事もしており、何百人、何千人が集まるビジネスイベントで多くの人に出会い、話を聴いたり、アドバイスをしたりしている。整形外科医、歯科医、弁護士など自分のビジネスを持っている専門家から建築用の資材を別の会社に販売するB to Bビジネスまで多岐にわたるのだが、何年か前のイベントでブースで忙しくしている最中に「あなたが知らないマーケティングを教えてあげるわ」と高圧的な態度で話しかけてきた若い女性がいた。

ソーシャメディア、特にインスタグラムで「インフルエンサー」と呼ばれる素人スターのひとりらしく、「インフルエンサーにお金を払って宣伝してもらうように企業に教えるべきだ」と、頼んでもいないのに「指導」してくれた。そこで私はやんわりと、「そういうやり方は、私たちが信じて薦めるマーケティングとは相反するので、知っていても教えないのですよ」と答えておいた。

インフルエンサーにお金を払って会社のものを使ってもらう、というのは、「有名人を使って、そのファンに製品を売り込む」という点で昔からあるテレビコマーシャルと基本的には同じだ。だから、購入する人たちがわかってやっているなら、やりたいインフルエンサーはやればいいと思う。でも、ブースに来た女性のように「若くてスタイルがいい」ことが売り物の人は、その商売を長く継続させていくのは大変だろうと思った。

スポンサーからお金をもらってイベントなどの約束をしたのに、それを果たさなくて訴えられるケースも出てきている。その場合にはインフルエンサーだけでなく、スポンサーにも悪印象を抱かれるから要注意だ。

The Bright Side of Going Darkは、そういった現象をうまく取り入れた女性小説だ。どうでもいいようなロマンス部分は別として、ソーシャメディアでのインフルエンサーがいつの間にか自分ではない存在になってしまって抜け出せなくなる心理をよく描いている。

ヨガ教師のMiaは、新しいSNSの初期の時代に加わったこともあり、3本足の愛犬とのヨガでフォロワーを増やし、いつしか、そのSNSで指折りのインフルエンサーになっていた。最初のうちは製品の無料サンプルを受け取る程度だったのだが、Miaの人気に目をつけた会社がスポンサー契約を持ち込むようになった。愛犬の死のショックから立ち直れないMiaはヨガ教室を売払って「インフルエンサー」をフルタイムの仕事にするようになり、寂しさを埋めるようにハンサムな婚約者も得た。ところが、結婚式の寸前になって婚約者がドタキャンし、ドレスや花のデコレーションなどで多額の契約を結んでいたMiaはにっちもさっちもいかない状況に追い込まれた。苦肉の策でごまかしたMiaは、インターネットも電話も通じない実家に戻り、携帯電話を捨ててしまう。Miaはソーシャメディアから姿を消したのだが、そのソーシャメディアで安全管理を担当している女性が、ある思い込みでハッキングしてMiaになりすましたことから事態はどんどんややこしくなる……。

外面ばかり気にしているようなヒロインと、そのヒロインを利用することしか考えていないような婚約者にはうんざりするが、社交能力がゼロに等しい姉と自殺未遂の妹の2人が関わってきて、ソーシャメディアでの関わりに人間味が出てくるところはいい。最後まで全体的には軽いし、表層的だが、ソーシャメディアの時代の誘惑の罠やプレッシャーなど、特にアメリカの「いま」をよく反映しているところが面白いと思った。

ハーパーコリンズの編集者や文芸エージェントの経験を持つ作者らしく、ツボをよく知って書いていると思った。そういう経験を持つ彼女がアマゾンの出版社を選んだというのも興味深い。彼女の昨年の作品The Overdue Life of Amy Bylerは、Goodreadsの2019年Choice Awardsの候補にもなった。

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