作者:Erin Entrada Kelly
Hardcover : 400 pages
ISBN-13 : 978-0062747303
Publisher : Greenwillow Books
発売日:May 5, 2020
適正年齢:小学校高学年から中学生向け
難易度:5/10(日本の高校英語で苦労しなかった人のレベル)
ジャンル:児童書(Middle Grade➖小学校高学年から中学生)
キーワード:1980年代アメリカ、思春期特有の悩み、家族関係、友達関係、スペースシャトル・チャレンジャー号
時は1986年。アメリカのデラウェア州に住むThomas家には、中学校に通う3人のきょうだいがいる。長男のCashは成績がふるわず、アメリカでは一般的に中学校2年生に匹敵する7年生を繰り返している。そのために、一つ年下の双子の弟Fitchと妹Birdと同じ学年になっている。
学年は同じだが、きょうだい3人はまったく似ていないし、仲も良くない。Cashは学校のバスケットボール部だけが生きがいだったが、腕を骨折して休部している。Fitchは放課後に毎日のように行くアーケードゲームだけが得意だ。Birdは2人とは異なり勉強が好きで特に宇宙に興味を抱いているが、「女のくせに…」という偏見にさらされ、変人扱いされている。
思春期は自分も変わるし、周囲も変わる時期だ。将来も不安だが、何よりも、自分が他人にどう見られているのかが重要になる年齢でもある。Cashの成績は上がらず、このままでは7年生をまた繰り返すことになる。そして怪我が治っても、自分にはバスケットボールの才能がないことを知っている。Fitchは、男子生徒から「かわいくない」と思われている女の子から好かれていることを周囲から笑われて逆上し、他の生徒の目の前でひどい言葉を投げかける。自分でも理解できない怒りの噴出に戸惑い、どうして良いのか悩み続ける。
勉強ができて、何の問題も起こさないBirdは、Thomas家では透明人間のような存在だ。彼女にもそれなりの悩みがあることを、誰も考えようとしない。
だが、彼らの両親は子どもたちが悩みを抱えていることに気付かないし、気付こうともしない。
父親は「女の仕事は男を支えること」と信じているタイプで、なにかにつけて兼業主婦の妻をけなす。自分と子どもたちがどんなに空腹でも妻が仕事から戻って夕食を作るのを待ち、夕食はテレビのスポーツ観戦をしながらひとりで観る。母親のほうも、不機嫌を嫌味に変えるタイプで、両親はちょっとしたことで怒鳴り合いを始める。そのたびにこどもたちはそれぞれの部屋に逃げる。家族で一緒に夕食を食べることはない。
Birdは、友人の家での夕食に招かれ、同じテーブルで夕食をとる家族がいることを知る。そのうえ、その家族の親は子どもの意見に耳を傾け、怒鳴り合ったりしないのだ。Birdは、家族が一緒に夕食を取ることを夢見る。Birdのもっと大きな夢は、宇宙飛行士、しかも宇宙船のコマンダー(司令官)になることだ。科学担当の女性教師は、スペースシャトル「チャレンジャー号」の「教師として初めての宇宙飛行士」のポジションに応募したほどの宇宙好きで、ずっとチャレンジャー号をテーマにした授業をしていた。その授業に没頭しているのは学校でBirdくらいだった。
きょうだいがそれぞれに悩んでいる時にチャレンジャー号の悲劇がおき、それが彼らの何かを変える……。
1986年のチャレンジャー号の悲劇を覚えている世代にとって、このWe Dream of Spaceはノスタルジックな小説だ。教師として初めて宇宙に行くことになったのは、ニューハンプシャー州で高校教師をしていたクリスタ・マコーリフで、シャトルから「宇宙授業」を行うことになっていた。シャトル打ち上げの生放送を教室や講堂で一緒に観た学校も多く、そのために多くの子どもがこの悲劇を目撃することになった。この時代の子どもたちに影響を与えた歴史的な出来事だったことは間違いない。
今は女性宇宙飛行士は珍しい存在ではなくなっているが、1960年代から70年代初期にかけてのアポロ計画時代には女性が宇宙飛行士になるのは問題外だった。そして、チャレンジャー号の時代でもまだまだ「女は家で夫と子どもを支えるべきだ」と考えるThomas家の父親のような人のほうが多かったのだ。この児童書では、そういった時代の背景とともに、Thomas家の3人のきょうだいがそれぞれに体験する思春期特有の生きづらさを静かに描いている。派手な達成も、解決もない筋書きだが、「これから3人はたぶんそれなりに支え合って生きていくだろう」という希望が持てるエンディングがよい。
ただし、この巧妙なエンディングは、自分の過去を振り返って理解できる大人とは異なり、小学校高学年や中学生には伝わりにくいと思う。そこは残念に思った。