作者:Jessica Townsend
シリーズ名:Nevermoor (Morrigan Crow)
適正年令:小学校3年生から中学生向け
Lexile指数:790L
難易度:5/10(高校英語をマスターしていれば理解できる文章。ファンタジー造語を識別する必要あり)
ページ数500ページ程度
出版社 : Little, Brown Books for Young Readers
ジャンル:児童書ファンタジー
キーワード/テーマ:呪われた子供、魔法、超能力、魔法学校、秘密結社、友情、忠誠心、魔法の動物
賞:新聞、雑誌などのベスト児童書に数多く選ばれている
2020年 これを読まずして年は越せないで賞候補
最悪の運勢の日であるEventideに産まれたMorrigan Crow(モリガン・クロウ)は、呪われた子である。何か悪いことが起きると、すべてモリガンのせいにされていた。だが、その不運ももうじき終わる予定だった。なぜなら、Eventideの日に産まれた子は、次のEventideの日死ぬことになっていたからだ。それは、モリガンの11歳の誕生日だ。 Wintersea共和国の重職に就いている父親は、厄介者がいなくなるその日が待ちきれないようだった。だが、誕生日の夜、Jupiter North(ジュピター・ノース)という不思議な男が現れ、モリガンを秘密の世界に連れ去った。それは、Nevermoor(ネバームーア)という魔法都市だった。
だがモリガンの安全は保証されたわけではなかった。この都市の特権組織であるWundrous Societyに属するための入団試験に合格しないと、不法移民としてWinterseaに送り返されてしまう。けれども、モリガンには最終試験で要求される特殊な才能はない。Winterseaでモリガンを待ち受けているのは死だ……。
このようにスリルと謎に満ちた設定で始まったのが、オーストラリア人作家Jessica Townsend(ジェシカ・タウンゼンド)のNevermoor series(ネバームーア・シリーズ)である。デビュー作家でありながら、あっと言う間に全世界でベストセラーになった。読めばわかるが、児童書の狭いカテゴリにとどめておくのはもったいないほど面白い。第一巻は500ページもあったのだが、それを忘れさせてくれるページターナーだ。
血のつながった家族から愛されない孤独な子供が、ある日魔法の世界に招かれて自分に特殊な能力があることを知り、学校に入学する…というのは、ハリー・ポッターを連想させる設定だ。どんなことがあっても自分を支えてくれる親友ができることも似ている。けれども、ネバームーアのシリーズにはハリー・ポッターにはない独自の魅力がある。不安や恐怖はあるが、読んでいる子供が悪夢を見るような感じではない。ヴォルデモートに匹敵する人物はいるが、徹底的な悪の存在ではないのではないか、と希望を抱かせてくれるところがある。
何よりも大きな違いは、現実の社会問題や人々の偏見や差別を取り扱っているところだ。2020年発売の第三巻Hollowpoxは、伝染病の蔓延でパニックを起こす社会と、それによって浮き彫りになる人々の偏見と差別を描いている。ネバームーアには見た目は動物のようだが、人間と同じ(あるいはそれ以上の)能力を持つWunimal(ワニマル)という人種がいる。そのワニマルたちが、次々と攻撃的な動物Unnimal(アンニマル)になって市民を襲うようになったのだが、それはHollowpoxという伝染病によるものだった。ふだんからワニマルに差別心を抱く市民たちが噂やワニマルに対する恐怖と差別心を広め、ネバームーアは危険な状況になる。まるで、COVID-19のパンデミックが蔓延しているアメリカみたいだ。作者のタウンゼントがこの巻を執筆しているときには想像できなかったはずなので、もしかすると彼女にもネバームーアの秘密結社に入団できるような能力があるのかもしれない。
このシリーズはまだまだ続いていくようだが、次の巻が出るのが楽しみだ。英語圏の小学校3年生程度から読める英語なので日本の高校英語を学んだ人なら読めると思う。だが、日本語でも、ベテラン翻訳家の田辺千幸さんの翻訳ですでに2巻出ているので、日本語のほうがいい人はそちらをお薦めする。
シリーズ1巻 Nevermoor: The Trials of Morrigan Crow
シリーズ2巻 Wundersmith: The Calling of Morrigan Crow
シリーズ3巻 Hollowpox: The Hunt for Morrigan Crow