王子様に救われるよりも、社会や周囲の期待から解放されて生きることを望む21世紀のシンデレラ絵本 Cinderella Liberator 『シンデレラ 自由をよぶひと』

情報元がディズニーであれ、絵本であれ、「シンデレラ」のことを知らない人は世界中にほとんどいないだろう。継母と義姉妹にいじめられ、召使いのように扱われているシンデレラのところにフェアリーゴッドマザーが現れてお城でのダンスパーティーに行けるようにドレスや馬車を与えてくれる。でも真夜中になると魔法が消えるので、王子様とダンスしていたシンデレラは急いで戻ろうとする。そのときに落としたガラスの靴の片方を持って王子様はシンデレラを探し出す。そして、2人は結婚して幸せになりました…..というストーリーだ。

このストーリーは、すべての女の子の夢の実現のように捉えられてきたが、私は、子供のときからわりとつまらない物語だと思っていた。王子様と結婚した後のシンデレラの人生がどうなるのかちっとも見えなかったし、王子様の横にいて踊っているだけの人生だとしたら、ほんとうにつまらないとも思った。それよりも、見知らぬ世界で空を飛んだり、森を駆け抜けたりする冒険物語のほうが好きだった。

「王子様に救ってもらって結婚するのが私たちに与えられた最高の目標なの? そうじゃないでしょ」と思う女の子は私だけではなかったようで、多くの女性作家がシンデレラのretelling(改作)を書いてきた。それらの本に出てくるシンデレラ(あるいは、義姉妹)は自分で自分の人生を切り開く女性であることが多い。

アメリカで著名なフェミニストであり、『それを、真の名で呼ぶならば』の著者でもあるレベッカ・ソルニットが2019年に刊行したCinderella Liberatorという絵本もそのretellingのひとつだ。これを邦訳版で出す企画を考えついたのはニューヨークで弁護士をされている渡辺 葉さんだった。邦訳版の絵本の「訳者あとがき」に葉さんが書いておられるように、彼女はサンフランシスコの本屋さんでソルニットの絵本に出会った。そして、そのソルニットは、サンフランシスコの公共図書館の古本屋で古いシンデレラの絵本から来た版画に出会ったのがこの絵本を書くきっかけになった。つまり、『シンデレラ 自由をよぶひと』という絵本が誕生する前には、サンフランシスコでの2度の偶然の出会いがあったというわけだ。それだけでも、ひとつの物語になる。

私は、ソルニットが最後に書いた解説部分の翻訳で参加させていただいただけだが、ソルニットのバージョンのシンデレラはとても気に入っている。シンデレラだけでなく、王子や義理の姉妹を含めて登場人物全員がしがらみから解放されているところがいい。

日本語バージョンの絵本のほうが表紙も素敵だし、アーサー・ラッカムのイラストも活きていると思うので、ここは洋書ファンクラブだが、どちらかというと、邦訳版のほうをお薦めしたい。アメリカ人の夫も、手にとって「これ、すばらしい絵本だ」と感心していたくらいなので。

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邦訳版(暗いところで撮影したので、帯がピンクに見えるけれど、実際は藤色)

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