2020年に書きそびれた本のひとことレビュー Vol. 1

2020年のうちに書こうと思っていた本のレビューが溜まりすぎて不可能になっていました。いつもならそのままにするのですが、今年はシンプルにメモを残しておこうと思います。全部書いたらページが重くなってしまったので、Vol.1、2、3に分けることにします。

Vol.1 は、お薦め度が高いものです。

Hidden Valley Road

作者:Robert Kolker
ジャンル:ノンフィクション
難易度:7/10
私の評価:4.5(5段階評価)
オバマ大統領の2020年Favorite

アメリカ コロラド州のある夫婦が1940年代から1960年代にかけて産んだ12人の子供(上の8人は男で、末の2人が女)は、容姿と運動能力に恵まれていたが、6人が後に統合失調症(schizophrenia)を発症した。統合失調症は謎が多い精神性疾患だが、この時代までは、「母親の育て方」といったnurtureを原因として唱える精神心理の専門家が多かった。この家族の存在は、それに疑問を投げかけた。精神疾患を発症しなかった末の娘2人から依頼された作者が生存している家族を取材して書いた非常に興味深いノンフィクション。ただし、兄たちによる妹たちへの性的虐待など、性的暴力のサバイバーにはトリガーになる因子もある。

 

No Filter


作者:Sarah Frier
ジャンル:ノンフィクション/ルポ
難易度:7/10
私の評価:4.5
Winner of the 2020 Financial Times and McKinsey Business Book of the Year

Twitter、Facebookなどのソーシャルメディアがビジネスや政治に膨大な影響を与えるようになっているが、Instagramはそれらとは異なる影響力を持っている。これまでプロしか入り込めなかった世界で素人がインフルエンサーになり、若くして富やパワーを持つようになったりしている。ビジネスだけでなく、アメリカの若者の付き合い方にも大きな影響を与えているSNSだが、誕生したときには将来へのはっきりした展望などなかった。その誕生からFacebookに買収された経過、買収後も創始者たちが残って独自性を保とうとしたことなど、ドキュメンタリー番組を観ているようなドラマがある。

 

The House in the Cerulean Sea


作者:TJ Klune
ジャンル:ファンタジー
難易度:6/10
私の評価:4.0

普通の子供とは異なる魔力や容貌を持つMagical Youthの「保護」と「養育」を担当する省Department in Charge of Magical Youthでケースワーカーとして働くさえない中年男性が、最悪な上司の命令で危険な子供が収容されている児童養護施設に送り込まれる。紺碧の海沿いにあるその施設で、男はこれまで気づきもしなかった家族愛やロマンスを見出し、自分が忠実に勤めてきた省に対抗する反骨精神を持つようになる。まるで児童書のような雰囲気の本だが、大人のLGBTQのロマンスも入っているので、どうやら大人向けらしい。前評判も良く、読者評価も高いし、心温まる本だが、私には表層的すぎるように感じた。

 

Such a Fun Age


作者:Kiley Reid
ジャンル:現代小説(やや風刺小説)
難易度:7/10
私の評価:4.0
ブッカー賞ロングリスト/その他数多くのbest books of 2020リスト

女性のエンパワメントや社会正義を信じている白人女性のAlixは、大学を卒業したもののこれといった将来への展望がない25歳の黒人女性Emiraをベビーシッターとして雇っていた。そのEmiraがAlixの子供を連れて近所の高級スーパーマーケットで買い物をしているときに誘拐の疑いをかけられる。その様子がソーシャルメディアで話題になり、Alixは社会正義のために声をあげようとする……。アメリカでは、通っている有名大学の寮や泊まっているホテルのロビーにいた黒人がそこに通りあわせた白人から警察に通報されたり、泥棒扱いされるケースは多い。その様子のビデオがソーシャルメディアでよく流れてくるが、この小説はその社会的状況だけでなく、Alixのように救世主願望がある白人が、結局は上から目線をやめていないことも描いている。そういう意味では意義がある作品だが、Emiraの生き様に同情や共感も抱くことができない。それゆえ、小説としては3.0以下の評価。社会的な意義として1点を加えた。

 

Enter the Aardvark


作者:Jessica Anthony
ジャンル:文芸小説(風刺小説)
難易度:8/10
私の評価:4.0

ある夏の朝、再選を目指す共和党下院議員の自宅にFedExで大きな荷物が届いた。その中には巨大なAardvark(ツチブタ)の剥製が入っていた。誰が何のために送ってきたのか? 議員は誰にも知られないようAardvarkを処分しようとするが、どんどん泥沼にはまっていく…..。
現在アメリカの共和党議員の酷さを風刺しているのは明らかだが、それ以外にも奇妙な話が入ってくるし、つかみどころがない小説。けれども、滑稽さが笑えるし、わけがわからないところも面白い。奇妙な小説が好きな人におすすめ。

 

 

3 thoughts on “2020年に書きそびれた本のひとことレビュー Vol. 1”

  1. こんにちは、以前こちらでコメントしたんですが、HNを忘れてしまったのですみません。
    Hidden Valley Roadは友人に勧められて読んだんですが、インパクトがすごかったですね。オーディオブックで聞いたのでたくさん名前が出てきて、混乱しがちだったので今度読み直してみたいです。

  2. 私もHidden Valley Roadはかなりの部分をオーディオブックで聞いたのですが、おっしゃるように混乱するので、Kindleで名前の部分を観ながらチェックしたり、文章で読み直したりしました。なんせ12人も子供がいたら誰が誰なのかわからなくなりますよね。それにしても母親が娘を守らなかったことには猛烈に腹が立って、モヤモヤしたままです。

  3. Hidden Valley Roadは衝撃的ですね。将来を嘱望された兄弟達が、思春期が終わる頃に症状が出始めて人生が変わっていく様子が凄まじかったです。

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