奴隷の少年2人の悲劇的なラブストーリーを描く、野心的なデビュー作 The Prophets

作者:Robert Jones, Jr.
Publisher : G.P. Putnam’s Sons; 1st Edition
発売日:January 5, 2021
Hardcover : 400 pages
ISBN-10 : 059308568X
ISBN-13 : 978-0593085684
適正年齢:大人向け
難易度:9
ジャンル:文芸小説/歴史小説
テーマ:奴隷制度、南部プランテーション、同性愛、LGBTQ+、キリスト教、人種問題の複雑さ、ラブストーリー

奴隷時代のアメリカ南部ミシシッピ州のプランテーション「Empty」で奴隷として育ったSamuelとIsaiahは、一緒に働き続けるうちに互いを愛するようになった。ナスの紫色に近い肌のSamuelと黒い肌のIsaiahは外見だけでなく性格も異なるが、他の者からはひとまとめで認識されている。

プランテーションの主である白人のPaulは奴隷を家畜のように繁殖させて財産を増やそうとするが、Isaiahがそれに応じないことに苛立つ。Paulは女性奴隷のEssieをレイプし、その結果生まれたのが混血のSolomonだった。奴隷の中でリーダー格を自負するAmosは一方的にEssieに惚れ込んでおり、Paulに取り込めばEssieと一緒になれると思い込む。Amosは、Paulの代理人として奴隷たちにキリスト教の布教をし、男性同士で愛し合っているSamuelとIsaiahを異質な存在として奴隷仲間から敵視させるように操る。

北部の寄宿学校で学んでいる奴隷オーナーのひとり息子は甘ったるい奴隷解放思想を持ち、自分は奴隷に優しいと思い込んでいる。だが、彼がSamuelとIsaiahの肉体に対して行っていることは、父親のPaulがEssieたち女奴隷に行ったレイプとさほど変わりがないことだ。

Paulの妻には彼女なりの心理問題があり、奴隷の管理人をしているJamesは白人だが貧乏なので奴隷を一人として所有することができない。それぞれに不満と怒りを抱えている。唇の分厚ささえなければ白人と間違えられるAdamは、Paulが自分を息子として認めてくれることを待ち望んでいる。女奴隷のMaggie、Essie、Puahも、それぞれに誰にも言わない秘密や夢や失望を抱えている……。

 

2021年の話題作のひとつThe Prophetsは、非常に野心的なデビュー作だ。中心になっているのは、SamuelとIsaiahのラブストーリーだが、白人奴隷オーナーによる女性奴隷のレイプ、奴隷コミュニティの中でのミソジニー、同性愛に対する嫌悪感と差別、白人のレイプによって生まれた混血の子供たちが誰にも属せない孤独さなど、アメリカの奴隷の歴史がぎっしり詰まっている。そのうえ、奴隷たちの祖先であるKosongoのバイセクシュアルの女性の王の逸話も織り込まれていて、書き終えるのに13年かかったというのが納得できる400 ページだ。作者のロバート・ジョーンズ・ジュニアにとって、この作品はデビュー作だが、その前から彼が主宰していたフェイスブックのSon of Baldwinはかなり有名だったらしい。

文体は、作者が尊敬するというトニ・モリスンやジェイムズ・ボールドウィンに似たところがあり、出版社もそれらの名前を挙げてPRしているようだ。その期待に応える心地よいリズムのところもあるが、描写しすぎてかえって邪魔になっている場面もかなりある。女性の登場人物も多いが、それぞれの独自の声が生きているとは思えなかった。どこかの書物から借りてきたような部分、あるいは現代人の視点での批判のような文章が入るたびに、ストーリーから引き離された気分になって残念だった。

作者の熱意と努力には5点満点の10点を上げたいが、私にとっては詰め込みすぎだった。もっと2人の青年のラブストーリーに集中し、饒舌すぎる描写はカットしてほしかったというのが正直な感想である。

 

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