どんでん返しを狙いすぎてまとまりがなくなってしまったゴシックミステリ Her Dark Lies

作者:J.T. Ellison
Publisher : MIRA
発売日:March 9, 2021
Hardcover : 416 pages
ISBN-10 : 0778331989
ISBN-13 : 978-0778331988
適正年齢:PG15+
難易度:7
ジャンル:ゴシックミステリ
キーワード/テーマ:イタリアの孤島、デスティネーションウエディング(海外のリゾート地での結婚式)、富豪家族の秘密、殺人

 

新進アーティストのClaireと裕福なCompton家の息子Jackの結婚式が迫っていた。結婚式は、Compton家が何世代にもわたって所有するイタリアの孤島のヴィラで行うことになっていた。学歴がない中流家庭の若い女性と、国際的に名前が知られているパワフルな家族の後継者との結婚はメディアからも注目されていたが、結婚式の場所は極秘になっていた。Claireの父はすでに亡くなっており、残りの家族とは疎遠である。友達があまりないClaireには子供時代の親友がひとりいるだけだ。だから結婚式に招待したのはアルコール依存症の母と母が再婚した相手、仲違いをしている妹、Jackと仲が悪い親友、という4人だけだった。

イタリア行きを目前に控えたある日、Claireの家に男が押し入り混乱のなかでClaireは男を銃殺してしまった。Compton家は弁護チームとコネを使って事件を揉み消しにし、結婚式のスケジュールをそのまま続けた。

結婚式の数日前から招待客はヴィラに集まり、リハーサルディナーなど数々の催しをすることになっていた。だが、嵐のために式のスケジュールを1日早めにずらすことになった。完璧なセキュリティのシステムがあるヴィラのはずなのに、Claireが島に来てから異様なことが次々と起こる。結婚式どころではなくなっているのに、なぜか家族は結婚式を中止しようとはしない。誰もが大きな秘密を抱えたままで結婚式が始まろうとしていた……。

年上の洗練された男性に見初められて裕福な家族に嫁入りする若いヒロイン、彼かつて結婚していた妻の謎、家族の豪邸を訪問して次々と起こる不思議な出来事…..という点では、古典のRebeccaに影響を受けたゴシックミステリそのものだ。だが、「孤島での結婚式の最中に大嵐がやってきて停電し、殺人が起こる」という点では、The Guest Listによく似ている。

私はRebeccaThe Guest Listも好みなので、このゴシックミステリも好きになりそうなものだが、いまひとつだった。謎はたくさんあるし、どんでん返しも多いので、娯楽作品としてはまあまあ楽しめる。けれども、「秘密」をものすごくひきずっているわりにはびっくりするような秘密ではないし、登場人物たちの言動の辻褄があわない。大げさな行動が多いのだが、「なぜそこまでしなければならないのか?」への納得できる答えは与えてもらえない。「それは現実には無理だよ」ということも多すぎる。大惨事になっていくときも、ドキドキ怖くなるよりも、「収拾がつかない昏迷状態」にこっちが困惑してしまう。

どんでん返しが好きな読者は楽しめるかもしれないが、私にとってはただモヤモヤ感が残るミステリだった。

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