作者:Nancy Springer
ASIN : B001QIGZ9K (キンドル版)
Publisher : Puffin Books
紙媒体のページ数:236
オリジナル発売日 : 2006年2月
適正年齢:9-12(小学校高学年から中学生対象)
難易度:5(文法と使っている単語がシンプルでストーリーが短いために読了しやすい)
ジャンル:児童書(Middle Grade=小学校高学年から中学生向け)/ミステリ
キーワード:シャーロック・ホームズ、Women’s suffrage(女性参政権運動)、ティーン向けのフェミニズム小説、ミステリ
賞や映画化など:Netflix Enola Holmes
1983年刊行の小説The Queen’s Gambitなど、過去の作品がNetflixで映像化されて再び読まれるようになっている。2006年から2010年にかけて刊行されたEnola Holmesシリーズもそのひとつだ。私もNetflixの映像を観てから内容をチェックしてみたのだが、今まで読み逃していたのを後悔するくらい面白かった。2日で一気にシリーズ6巻全部を読了してしまったくらいだ。
マイクロフト・ホームズとシャーロック・ホームズにずいぶん年下の妹エノラ・ホームズ(Enola Holmes)がいるという設定で、そのエノラが主人公のミステリである。
Netflixの第一話は、原作の第一話とかなり異なる。
Netflixのほうではエノラは16歳だが原作では14歳である(中学生向けの作品ということもあるだろう)。そして、映像のほうでは美形の青年になっているMarquess(Viscount Tewkesbury)は、原作では12歳だ。プロットも犯人も異なるので、原作を読んだ人も異なるミステリとして楽しむことができる。
共通しているのは、Enolaという名前がAlone(ひとりぼっち)を逆さまに読んだものであり、その名前をつけたフェミニストの母親は、エノラがひとりで生きていけるように育てたというところだ。歳が離れた兄2人は赤ちゃんの頃から妹と会ったことがなく、エノラの誕生日に母が突然姿を消したことで再会する。兄たち(特に養育権を持っているマイクロフト)は、「女の能力は劣っている」「上流の娘はレディらしい技能を身に着けて良い結婚をするのが仕事」だと信じている。母から異なる教育を受けたエノラをレディらしく再教育して結婚させるために、マイクロフトは厳格な寄宿校にエノラを送り込む。家族愛を含む感情すべてを抱くことを拒否するシャーロックもマイクロフトに反対はしない。ひとりぼっちを自覚したエノラは寄宿校から逃亡し、兄たちからも逃げながら、失踪した母を探す。
原作シリーズでのエノラは、偽りのアイデンティティをたくみに使いつつシャーロックが引き受けて解決できないでいる難問をひそかに解いていく。そこが女の子の読者には特に胸躍る部分だと思う。探偵としてのエノラの活躍には、「地位がある男性たち(マイクロフトとシャーロック)たちから、『おまえは女だから劣っている。できるはずはない』と言われても、自分の能力を信じて挑戦し続けなさい」というメッセージが潜んでいる。実力を証明することで、エノラはマイクロフトとシャーロックに自分を理解してもらえるようになる。大人になってから何十年もたつ私ですら、このシリーズを読んでいて心の中の14歳の少女がウキウキしていた。
シリーズは上の6作だが、Netflixで人気になったためか新作の7巻が8月に発売されるらしい。映像のほうではViscount Tewkesburyが主要人物として再登場することが匂わされているが、それを受けたのか、7巻には彼が出てくるようだ。13歳になっているはずの彼がどれくらい生意気になっているのかそれも楽しみだ。
【追記】
Netflixの映像シリーズで主人公のエノラを演じているMillie Bobby Brownは現在17歳で撮影時には本当に16歳。主人公を演じるだけでなく、プロデューサーでもあるという。原作のエノラもすごいが、Millieもそれに負けずすごい女性である。