作者:Darby Kane
Publisher : William Morrow Paperbacks
発売日:December 29, 2020
Paperback : 416 pages
ISBN-10 : 0063016400
ISBN-13 : 978-0063016408
適正年齢:大人向け/PG15(レイプなどのテーマがあるが、YAで扱われている内容程度)
難易度:7
ジャンル:心理スリラー
キーワード/テーマ:レイプ、未成年者の性的虐待、連続殺人事件、伴侶の裏切り、秘密、True Crime Podcast(犯罪ドキュメンタリーポッドキャスト)
Lilaは情熱的な愛よりも特別なことが何も起こらない安全な人生を望んでいた。自分より収入が少ない高校教師のAaronと結婚したのも、その夫の希望で彼の故郷の地方都市に引っ越して弁護士をやめ、フリーランスの不動産エージェントになったのも、そのためだった。静かな人生に満足していたのに、夫はLilaが思っていたような人物ではなかった。
人気教師のAaronが姿を消し、学校関係者や住民たちは捜索を始める。夫の安否を案じている様子がない冷淡なLilaを人々は疑うようになる。そのひとりが、頭脳明晰で勤勉な女性刑事Ginnyだ。女性というだけでなく黒人という二重のマイノリティのGinnyは、世論だけを気にして事件を簡単に解決させるようプレッシャーをかける白人男性上司と、自分の才能を過大評価している部下の白人男性刑事との間で苦労しながらも真相を追い続ける。
Lilaは人々の関心が薄れることを願っていたが、人気ポッドキャストのGone MissingがAaronの失跡事件を取り上げたためにメディアから注目されるようになってしまった。この大学都市で女子大生が姿を消したいくつかの事件をこのポッドキャストは取り上げていたのだが、それに関連してAaronの失跡にも触れたのだ。
Lilaが隠していた過去を知ったGinnyは、何が起こっても感情を表さない美貌の妻にますます興味を抱くようになる。真実を嗅ぎ当てられる才能を持つのはGinnyだけだと最初から察知しているLilaのほうも注意深く対応する……。
このPretty Little WifeはDarby Kaneの「デビュー作」ということになっているが、彼女はHelenKay Dimon名でロマンチック・サスペンス(ロマンス小説のミステリのサブジャンル)小説を多く書いてきたベテラン作家である。最近は女性作家による心理スリラーが非常に人気があり、こちらに転向することにしたのだろう。この作品にはロマンスの要素はまったくないのだが、ロマンス小説分野で鍛えられてきた「ドラマを盛り上げる」手法が発揮されている。HelenKay Dimonの作品を読んだことはないのだが、Goodreadsの読者評価を見ると、ロマンス小説よりも心理スリラーのこの本のほうが評価が高い。もともとロマンスよりも心理スリラーを書きたかった作家なのかもしれない。
展開があまりにもドラマチックなので、本格派スリラーを求める人はそれに辟易するかもしれない。けれども、先が見えないどんでん返しや登場人物の心理的かけひきを楽しみたい人は最後まで飽きずに楽しめると思う。特にLilaとGinnyという2人の頭脳明晰な女の心理バトルが面白い。
好感が抱ける登場人物はGinnyくらいなので、Gone Girlなどの「嫌ミス」が苦手だった人は避けたほうがいいかもしれない。