移民2世を追い詰めるインド系アメリカ人コミュニティの野心と羨望 Gold Diggers

作者:Sanjena Sathian
Publisher ‏ : ‎ Penguin Press
刊行日:April 6, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 352 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1984882031
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1984882035
適正年齢:一般向け(PG15)
読みやすさ:7
ジャンル:文芸小説、マジックリアリズム、風刺
キーワード、テーマ:インド系アメリカ人、移民2世、野望、羨望、嫉妬、成功のプレッシャー、学歴社会、魔術、ラブストーリー、成長物語(coming-of-age)

ジョージ・W・ブッシュが大統領だった時代のジョージア州アトランタの郊外のある地域では、移り住むインド系アメリカ人が増えてコミュニティも大きくなっていた。高校生のNeil(Neeraj) Narayanは、思春期の少年特有の悩みに加えて、インド系移民の両親からの期待に押しつぶされそうになっていた。美人で優等生の姉は「ミス・ティーン・インディア」で優勝してデューク大学に入学することが確実視されているが、弟のNeilは勤勉ではないので成績も姉ほど良くない。目下の目標は、魅力的に成長した隣家のAnitaと高校でのダンスパーティに行くことだ。

ダンスパーティの夜、Neilは偶然に隣家の秘密を知る。Anitaの母親Anjaliはインドに古くから伝わるアルケミーで願いを叶える薬を作って娘に飲ませていたのだ。金には特別なパワーがあり、金のジュエリーには所有する者の野望や才能が込められている。インド人は純粋な金のジュエリーを重視するので、誰もが多くの金を持っている。Anjaliは卓越した達成をしているインド系アメリカ人が所有する金のジュエリーを盗み、アルケミーでそれを特別なレモネードに変えていたのだ。Anitaの野心は「ハーバード大学に入学すること」であり、すべてはそのための努力だった。ダンスパーティの夜にAnitaが盗んだのはNeilの姉が大切にしていた金のネックレスだった。その結果、ミス・ティーン・インディアUSAの地方大会でAnitaが優勝した。本命視されていたNeilの姉はミス・ティーンでの優勝でデューク大学入学が確実になるはずだった。合格通知ではなくウエイティングリストの報告を受けた姉と両親は失望する。

NeilはAnjaliとAnitaの秘密を守るのと引き換えに、自分にもレモネードを飲ませてほしいと頼む。金のレモネードの効果で、Neilは高校のディベートでチャンピオンになり、集中力と野心が生まれて成績も上がった。しかし、レモネードを飲み続けないとそのパワーを持続させることはできない。野心にかられたNeilの行動が大きな悲劇を引き起こし、それをきっかけにNeilとAnitaは交流を断った。

数年後、カリフォルニア大学バークレー校の博士号過程で学んでいたNeilはインド系のウエイティング・コンサルタントをしているAnitaと再会した。Anitaは母親のAnjaliを救うために手助けしてくれるよう頼む……。

“Gold Digger”は一般的には「純粋に金銭のために結婚する人」を意味する。特に、美貌などを武器に裕福な男性と結婚する女性を表現するのに使われることが多い。タイトルでそういう内容の本だと思い込んでいたので、読んでみて驚いた。まったく異なる内容だったのだ。この本でのGold Diggerは「金の採掘者」という元の意味に近い。そのうえ、金の所有者が持つ独自の野望のエネルギーを盗むアルケミーが出てくる「マジックリアリズム」小説なのだ。

一応ラブストーリーもあるのだが、心地よくなる内容の小説ではない。それでも読む価値があるのは、アメリカでのアジア系移民独自のコミュニティの閉塞感がしっかり描かれているからだ。

私たちが住むマサチューセッツ近郊の町ではアジア系の移民が増えている。ユダヤ系の住民も多く、公立学校の競争が激しくて生徒は過度のプレッシャーを感じている。それが問題になってニューヨーク・タイムズ紙の記事になったほどだ。この状況を悪化させているのは親たちだ。中国系、インド系などの移民コミュニティがあり、そのコミュニティ内で「●●さんのところの子供はハーバードに入った」「●●さんの子供は怠けていたから州立大学しか行けなかった」などと噂をしあう。親たち同士でゴシップするだけでなく、子供に対して「ハーバードかMITでないと恥ずかしい」というプレッシャーを与える。そういった環境の悪影響がわかっていたので、私はわざと「子供のテストの点や進学する大学のことは尋ねないし、話さない」という人とだけ付き合うようにしていた。

この小説には、私が目撃した移民コミュニティのプレッシャーとその悪影響がちゃんと描かれている。NeilとAnitaは他人の野望のエネルギーを盗むために多くのことを犠牲にするのだが、そこまでして得るものは短期的な達成でしかないことも。

インド系移民2世のアイデンティティについての悩みを含めて、日本に住んでいる人にも多くの意味で興味深い小説だと思う。

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