アジア系のジョーダン・ベイカーが語り手のグレートギャツビーの改作 The Chosen and the Beautiful

作者:Nghi Vo
Publisher ‏ : ‎ Tordotcom
刊行日:June 1, 2021
Language ‏ : ‎ English
Hardcover ‏ : ‎ 272 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250784786
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250784780
適正年齢:一般向け
読みやすさ:7(冒頭シーンは8レベルで入り込みにくく感じるだろうが、それを過ぎれば読みやすくなる)
ジャンル:スペキュラティブフィクション、文芸小説
テーマ、キーワード:古典の改作(グレートギャツビー)、Jazz Age、LGBTQ(Queer)、魔法、紙のマジック、マジックリアリズム

このThe Chosen and the Beautifulはベトナム系アメリカ人作家Nghi Voによる小説『グレートギャツビー』の改作で、オプラ・ウィンフリーのマガジンなど多くのメディアが「今年の注目作品」に選んでいる話題作である。

おおまかな内容は『グレートギャツビー』にのっとっているが、この小説の語り手はNick Carrawayではなく、女性ゴルファーのJordan Bakerだ。Jordanはアジア系で、トンキンで宣教していた上流階級の女性が、彼女が幼いときにアメリカに連れ帰ったという設定になっている。上流階級で育ち、Daisyの親友として「選ばれた美しい人々」にいつも加えてもらっているJordanだが、白人ではないために完全に同等の立場にはなれないことを自覚している。

また、The Chosen and the Beautifulの世界には魔術がふつうに存在する。Jordanが生まれたベトナムには紙のマジックがあり、その才能を受け継いでいる彼女は紙から生き物を作り上げることができる。GatsbyはDaisyにふさわしい富を得るためにDemon(悪魔)に魂を売ったことが示唆されている。

Jazz Ageの、自由奔放で他人の心情や命にすら無頓着な上流階級の若者たちの生き方は、このThe Chosen and the Beautifulでもよく描かれている。主要登場人物たちはTomを除くと全員がQueer(性的アイデンティティと指向がメインストリームではない人をすべて包括する用語)で、それは現在のアメリカの若い読者が求めるものを反映していると言えるだろう。

しかし、これほど話題になっている作品だが、私にとっては期待はずれだった。文章も美しいし、雰囲気はたっぷりある。けれども、三角関係どころか立方体三次元関係の彼らからは「自由奔放」な行動の陰にあるyearningやlonging(思慕や切望)を感じることができず、がっかりした。また、せっかくJordanをアジア系にしたのだから、Jazz Ageにアジア系であることをもっと掘り下げてほしかった(一応出てくるのだが、それ以上掘り下げてもらえなくてモヤモヤした気持ちが残る)というのもある。一番興味深かった登場人物の設定はNickだった。最後まで読むと彼が理解できる。

私にとって最も残念だったのは、この小説の大半がよくできたFanFiction(二次創作)に感じたことだ。でも、それが好きな人もいると思うので、ぜひ自分で試してみていただきたい。

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