オバマ元大統領夫妻のプロダクションによってNetflixシリーズ化されるYAスリラー Firekeeper’s Daughter

作者:Angeline Boulley(デビュー作家)
Publisher ‏ : ‎ Henry Holt and Co.
刊行日:March 16, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 496 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250766567
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250766564
対象年齢:高校生(PG14)
読みやすさ:7(文章はシンプルで理解しやすいが、登場人物が多く、プロットも複雑。ページ数も多い)
ジャンル:YAスリラー
キーワード、テーマ:アメリカ先住民族、オジブワ族(Ojibwe)、インディアン自治区、ドラッグ取引の犯罪、殺人、性的暴力、FBI、覆面捜査、アイスホッケー、ロマンス
特記:オバマ元大統領夫妻のプロダクション「Higher Ground」によりNetflixでのシリーズ化決定。

舞台はカナダのオンタリオと隣接するSugar Islandを含むアメリカのミシガン州の地域。18歳の少女Daunis Fontaineは、ヨーロッパからの移民を先祖に持つ母と、先住民族のOjibwe族でFirekeeperだった父の2つの文化のはざまで育った。母は高校生のときに妊娠したのだが、アイスホッケーの花形選手だった父はほぼ同時にオジブワ族の別の少女と関係を持って妊娠させ、その少女のほうと結婚した。地元で尊敬されている裕福な母方の家族にとって、Daunisの誕生は唯一の汚点でもあった。

そういう背景があっても、Daunisは母違いの弟Leviとは仲が良い。数ヶ月先に生まれたDaunisはすでに高校を卒業していてLeviはまだ高校のシニア(最終学年)という違いはある。けれども、アイスホッケーの花形選手という共通点があり、父を亡くした悲しみも共有している。Daunisは名門大学であるミシガン大学アナーバー校に合格し、最愛の叔父を亡くした悲しみから逃れるためにも、異なる環境での新たなスタートを楽しみにしていた。けれども、母方の祖母の健康状態が悪化し、心身ともに脆弱な母を支えるために自宅から通える州立大学に変更した。

落ち込んでいたDaunisだが、弟Leviのアイスホッケーチームに新たに加わった転校生Jamieとの交流で少し明るくなる。けれども、衝撃的な殺人を目撃し、JamieがFBIの覆面捜査官だったことを知る。Jamieと彼の叔父で新任の科学教師は、新しく出回っているドラッグの調査のために地域に入り込んでいたのだった。Daunisは自分が利用されていたことに怒りを覚えるが、叔父の汚名を晴らすために調査に協力することを約束した。

化学が得意で医師を目指していたDaunisは、この地域特有の幻覚をもたらすマッシュルームについて独自にフィールド調査を始めた。だが、調査を進めるうちに、危険が身に迫ってくる……。

表紙からはYAファンタジーのような印象を受けるが、内容はLouise ErdrichのThe Roundhouseを少し連想させるスリラーである。作者のAngeline BoulleyもErdrichのようにオジブワ族で、Boulleyはアメリカの教育省のIndian Education部門のディレクターを長年務めていた。この地域で暮らし、Ojibweの教育に関わってきた作者は先住民族の女性たちが性的暴力の被害にあう現状や、加害者たちがアメリカとインディアン自治区の法律の間にある法の穴を利用してきたことを認識していた。FBIの覆面捜査官が高校生のふりをするというのは現実的ではないと思うかもしれない。だが、Boulleyがこのアイディアを得たのは、彼女がティーンのときに同じようなことが起こったからだった。この小説に書かれている数々の問題は、実際に先住民族のコミュニティで深刻な問題になっていることである。作者は、「悲劇ではなく、トラウマを描きたかった」ということだが、読んでいて十分それは伝わってきた。

ページ数も長く、残酷な場面もあり、残酷な体験をした人には「トリガー」になる可能性があることも特記しておきたい。

でも、最終的には被害者がパワーを取り戻すストーリーでもある。オバマ元大統領夫妻が作ったプロダクション会社「Higher Ground」がNetflixでシリーズ化することを決めたのも納得できるYAスリラーだ。

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