ゲイの若者たちにとっての #MeToo を描く、告白形式の小説 Yes, Daddy

作者:Jonathan Parks-Ramage
Publisher ‏ : ‎ Houghton Mifflin Harcourt
刊行日:May 18, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 288 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0358447712
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0358447719
対象年齢:一般向け(R:露骨な性描写、性暴力シーンが多い)
読みやすさ:7 (文章は6レベルでシンプル。ページ数も少ない。だが、ひとつの単語に含められた多くの意味が理解できないと状況が理解できないと思う)
ジャンル:現代小説
テーマ、キーワード:LGBTQ、ゲイの恋愛関係、性的暴力、心理的トラウマ、#MeToo、人身取引(ヒューマントラフィッキング)、自殺

Jonahは脚本家になる夢を実現させるためにニューヨーク市に来た。けれども、ゲイ専門のレストランでウエイターをしているだけでは成功への道は見えない。Jonahは、きっかけを作るために中年の有名な脚本家Richard Shriverに接近し、JonahとRichardは肉体関係を持ち始める。Richardから避暑地ハンプトンの別荘に招かれたJonahは期待に胸を踊らせる。自分はRichardにとって特別な存在になったのだと。ゲートに囲まれたRichardの別荘はリゾートのような大邸宅で、Richardの有名なアーティストの友達が夏を過ごすために来ていた。

Jonahはこの大邸宅で働いている給仕たち全員が若くて魅力的な男性ばかりだというのに気づく。彼らの身体には時々青あざがあり、Jonahに対する態度も不自然だ。しかし、Jonahがこの大邸宅の実態に気づいたときには手遅れで、彼は裕福な者たちの犠牲者のひとりになった。

ある出来事をきっかけに逃げ出すことに成功したJonahは、トラウマから回復しようとあがくうちに何度も失敗を犯し、自己嫌悪で自殺願望も持つ。そして、Richardへの復讐を夢見る……。

Jonahが抱える心理的問題の元凶は、同性愛を罪とする厳格なキリスト教福音主義の家庭で育ったことにある。思春期に自分が同性愛だと自覚したJonahは、教会の重鎮だった父の命令で「コンバージョン・セラピー(同性愛者を異性愛者に転向(conversion)させることを目的としたキリスト教の心理療法)」を受けた。Jonahは努力しても治らない自分に嫌悪感を懐き、セラピストに誘導されて「父から性的虐待を受けた」という虚実の告白をした。それを機に父は職を失い、家族は崩壊した。Jonahが繰り返し犯す過ちの背景には、こういった家族のトラウマがあることがわかる。

作者は「自伝的小説ではない」と言うが、自分が体験してきたことがかなり含まれていることがうかがわれる。この小説の中にもハービー・ワインスティーンの名前と#MeTooが出てくるが、Yes, Daddyでゲイの若者たちが受けた仕打ちは、まったく同じだ。

まとまりがない展開なので「もっとタイトに編集してほしかった」と思ったが、そのまとまりのなさがかえって自伝的でリアルにも感じる。

ダークで気持ちが沈むが、性暴力や人身取引(ヒューマントラフィッキング)の問題を衝撃的に伝えているという意味で重要な作品である。

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