作者:Namina Forna(デビュー作家)
Publisher : Delacorte Press
刊行日:February 9, 2021
Hardcover : 432 pages
ISBN-10 : 1984848690
ISBN-13 : 978-1984848697
対象年齢:高校生向け(PG15、極端なバイオレンスが多い。描写はないが性的虐待の話題が多出)
読みやすさ:6(平易な英語)
ジャンル:YAファンタジー
テーマ、キーワード:ジェノサイド(ある特定の集団を計画的に破壊させること。集団殺害)、内戦、女性の抑圧、性的虐待、西アフリカ、シエラレオネ、フェミニズム、不死、選ばれた者
Dekaが生まれた国では、16歳の女子は「Infinite Wisdom」という宗教教書に従う「Ritual of Purity」という儀式を行わなければならない。この儀式で赤い血が流れて純粋さが証明された少女は一人前の女性として結婚が許される。だから多くの少女が楽しみにしている。亡き母が南部の出身だったDekaは、父が白人でありながらも肌が黒く、白い肌の住民ばかりの村ではよそ者扱いされてきた。儀式で純粋でないことがわかった少女が司祭に連れ去られて二度と戻らなかったという噂は誰でも耳にしたことがあり、Dekaは不安でならない。
儀式の日、人々が最も恐れる魔物deathshrieksが村を襲った。Dekaはdeathshrieksから父や村人を救うことができたが、そのために悪魔の化身だとみなされる。思いを寄せていた少年から切りつけられたDekaの身体から流れたのは黄金の血であり、それが不純の証明になった。何度処刑されても蘇るDekaは地下に閉じ込められたままでいた。そこに首都からミステリアスな女性が訪れ、Dekaが特別な能力を持つalakiという存在であることを教えた。alakiはかつて死刑宣告を受けてきたが、今では帝王のためにdeathshrieksと戦う特別な兵士になる選択肢があるという。現状から逃れたいDekaは「白い手」とニックネームをつけた謎の女性と一緒に首都に向かった。
帝王の特別部隊でトレーニングを受け、deathshrieksと戦うことに慣れてきたDekaだが、Infinite Wisdomや帝王、そしてdeathshrieksすべてについて、これまで自分が教えられ、信じてきたことが嘘だということに気づいてきた。自分の生誕にも謎があった。それらが明らかになってきたとき、Dekaは難しい選択をしなければならなくなる……。
2018年にYAファンタジーのChildren of Blood and Boneや映画Black Pantherが大ヒットし、アフリカの文化をベースにしたファンタジーへの関心が高まった。このYAファンタジーも、そのトレンドに乗った作品のひとつであり、刊行前から話題になっていた。表紙もゴージャスで、読むのが楽しみだった。
数年前まで流行っていたYAファンタジーと比べると、多くの深刻な社会問題を組み込んでいる重厚な作品である。alaki誕生の歴史や、Dekaが住む国の信仰や帝王の独裁政権の仕組みなども、現実社会を反映していることが感じられる。それは大いに評価したい。
とはいえ、この小説は高校生が対象のYAでありながら目を背けたくなるようなバイオレンスが多くて、途中からそれにうんざりしてきてしまった。「バイオレンスが多い」というのは、最近のYAファンタジーの残念なトレンドでもある。性的虐待も、描写こそないものの、日常茶飯事のように出てきた。親や親族が少女に対して行うバイオレンスも強烈だ。作者が生まれたシエラレオネ共和国は、イギリス植民地だった時代から、独立、クーデター、内戦を繰り返してきた。そして、最近ではエボラ出血熱のアウトブレイクもあった。そういった過酷な歴史が影響しているのかもしれないと思った。
気になる矛盾もかなりあった。すべての少女が16歳の儀式まで自分の血を見たことがないという設定は普通の生活ではありえないことなので、そこは編集者がチェックしてほしかったと思う。だが、一番気になったのはこの小説のコアになっている「力強い女性」についてのメッセージだ。Dekaの国では女は男に尽くすための存在であり、国家も宗教もそう教える。だから少女が「結婚して子供を産んで愛する者のために生きる」ことだけを望むようになるのは仕方がないだろう。でも、それでも漠然とした疑問を抱く少女はいるはずなのだ。主人公は、村人から悪魔扱いされるまで女の置かれた地位に疑問を抱いたことがなかった。そんな子が突然リーダー格になることができるのだろうか? また、女性が構造的に抑圧されている社会での女性の選択肢が「従順な妻」か「支配階級の男をパワーで打ち破る力強い女」という極端さも残念だった。自分を抑圧してきた者たちを肉体的なパワーで打ち破るというのは、古代の頃から男性たちが何度も語ってきたストーリーである。すっきりするのは確かだけれど、ミソジニーに対抗するものを書くのであれば、異なるストーリーであるべきでないだろうか。そんなことを考えてしまった。
Children of Blood and BoneやThe Powerではそれを受け入れたのに、なぜこの作品には疑問を覚えるのか、自分でも不思議に思う。たぶんそれは、この作品にはどこかふっきれていないところがあるからだろう。この作品では、Dekaは美しいという設定だし、パワーを持っていてもキュートな女の子的な発想から抜け出していないところがある。でもやはりそこはYAファンタジーなので仕方ないかもしれない。