作者:Alex Michaelides (The Silent Patient)
Publisher : Celadon Books
刊行日:June 15, 2021
Hardcover : 352 pages
ISBN-10 : 1250304458
ISBN-13 : 978-1250304452
対象年齢:一般向け(PG15)
読みやすさ:6(読解力が不要なシンプルな文章)
ジャンル:心理スリラー
キーワード、テーマ:ギリシャ神話、テニスン、連続殺人、ケンブリッジ大学、心理セラピスト、秘密グループ、心理コントロール
ギリシャで生まれたMarianaは、ケンブリッジ大学で知り合った最愛の夫を亡くした悲しみから回復しないままにグループ心理セラピストとして働いている。そこに、母校ケンブリッジ大学で学んでいる姪のZoeから電話がかかってくる。ケンブリッジで見つかった死体が親友のTaraではないかと言うのだ。Taraは姿を消す前に奇妙なことを言ったという。翌日ケンブリッジにかけつけたMarianaは、Taraが残した言葉から大学教授のEdward Foscaが殺人犯人だと思いこむ。
ギリシャ神話を教えるカリスマ的なFoscaにはThe Maidensという取り巻きの女子学生グループがいる。いずれも、貴族や政治家、裕福な親を持つ特権階級の美少女だ。死んだTaraはこのグループの一員だったのだが、Foscaにはアリバイがあった。事件があった夜、彼はThe Maidensらと一緒にいたのだ。Marianaは彼女たちが偽りの証言をしていると信じるが、警察はMarianaの精神状態のほうを疑う。
そのうちに、The Maidensの別のメンバーが殺され、Marianaは自分でFoscaの犯罪を立証しようとする……。
この作者のデビュー作The Silent Patientはベストセラーになり、多くの言語に翻訳された。いくつかの理由から私はあまり良い心理スリラーだとは思わなかったのだが、2作めのこの作品が気にいる可能性はあるので偏見なしに読んでみた。
かなり沢山出てくる登場人物たちの生い立ちが心理的トラウマやギリシャ神話の悲劇に結び付けられていて、その合間にも「殺人犯」の告白文が挟み込まれている。それらすべてが最後に大きな「驚きの結末」があることを匂わせている。犯人になりそうな男性たちも、カリスマ教授のFoscaだけでなくいろいろ出てくる。レッドヘリングだらけなのは心理スリラーの定番なので構わないのだが、レッドヘリングだというのが(少なくとも私には)明らかすぎてイライラしてしまった。
前回もそうだったが、人物像に一貫性がないのがこの作家の心理スリラーの最大の欠点だ。そして、次の欠点は、表現の数々がメロドラマすぎること。
最後に「驚きの展開」があるのは良いが、読者が振り返って「ああ、なるほど!」とうなずかせるようなものでないと心理スリラーとして失格だと私は思っている。私は途中で犯人と手紙の主を推測したが、それは説得力があるからではなく、「レッドヘリングをたくさんばらまいて、最後に読者をあっと驚かせよう」という作者の思考回路に沿って推測したらそうなったというだけだ。
前作の登場人物がカメオ出演するので、前作のファンはそれを楽しめるだろう。
私が導き出した結論は、「Michaelidesの2作を読んだ後で心理セラピストにかかりたくなる人はあまりいないだろう」というものだ。その理由を書くとネタバレになるので、想像におまかせする。