サイコパスの女性が主人公の、奇妙にユーモアがあるエンターテイメントな復讐劇 Never Saw Me Coming

作者:Vera Kurian(デビュー作)
Publisher ‏ : ‎ Park Row; Original edition
刊行日:September 7, 2021(予定)
Hardcover ‏ : ‎ 400 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0778311554
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0778311553
適正年齢:PG15+(高校生以上。性的描写、バイオレンス)
読みやすさ:6(シンプルで読みやすい)
ジャンル:心理スリラー
キーワード:サイコパス、殺人、レイプ、復讐、アメリカの大学生活

サイコパスの特徴は、自己中心的で自己愛が強く、他人を思いやることができず、衝動的で慢性的な嘘つきといったところだ。本当の感情がなくても他人の期待に応じてうまく演じることができるので、魅力的な人物だとみなされていることも多い。そういったサイコパスが一箇所に集まったらどうなるだろう? それがこの心理スリラーの興味深い設定である。

アメリカの首都ワシントンDCにあるリベラルアーツ大学で、サイコパスを研究する教授が特別なプログラムを作った。サイコパスの診断を受けた学生に学費が全額免除になる奨学金を与え、継続的な調査の対象にするというものだ。このプログラムに参加した学生のリストは極秘であり、彼らが接触しないような予防策も立てられている。

このプログラムの新入生Chloe Sevreはもっとランクが高い大学に入学できる能力があったが、以前からこの大学だけを狙っていた。それは、この大学で3年生のWill Bachmanに接近するためだった。Chloeは、自分が12歳のときにレイプしてそれを友人にビデオで録画させたWillを殺害する計画を6年前から注意深く立てていたのだ。

ChloeはWillが属するフラタニティ(アメリカの大学独自の社交組織)の男子学生たちと仲良くなってパーティに招かれ、順調に計画を進めていくのだが、そのさなかに学生が残酷に殺される事件が連続して起こった。2人はChloeと同様にサイコパスのプログラムに属する学生らしい。Willと同じフラタニティに属するリッチな青年Charlesも同じプログラムに属しているのがわかる。そこに、学費全額免除で大学に行くためにサイコパスを装ったAndreが加わり、3人は殺人犯人を探し出すためのある種の「協力関係」を持つ。だが、ChloeとCharlieは自己中心的で慢性的な嘘つきのサイコパスだし、Andreは無料で大学に行くためにサイコパスを必死で演じている偽サイコパスだ。だから3人の協力関係には「信頼関係」はない。

プログラムを作ったWyman教授は、かつて連続殺人犯の裁判で犯人を擁護したことがある。3人は、現在起きている連続殺人はそれに関係しているのかもしれないと考え始める……。

サイコパスの女性が主人公というだけで心理スリラーとして面白そうなのだが、復讐についての執着心とドライな人間分析、表層的なフレンドリーさ、衝動的な行動などを一人称で読むところが想像以上に興味深い。セラピーでまっとうなガールフレンドを持って普通の生き方をすることを真剣に学ぼうとしているCharlieは、Chloeとは異なる意味で面白いキャラクターだ。お互いに相手を信用していないこの2人のやり取りは、(サイコパスではない)読者にとって興味深いエンターテイメントである。ダークなテーマなのについ吹き出してしまう。サイコパスに囲まれてサイコパスのふりをしなければならないAndreのしんどさは、読者にとって最も理解しやすいだろう。

デビュー作家のVera Kurianは心理学を学んだ専門家である。だからサイコパスの描写にリアリティがある。Chloeはとんでもないキャラクターだが、この3人がチームの学園ミステリ・シリーズを作ったらすごく面白いだろうと思う読み応えだった。ぜひシリーズを作ってほしい。

情報開示:私のがとある文芸プログラムで一緒に学んだ友人であり、9月発売予定の本書のARCを作者から送っていただいた。そういう経緯はあるが、本当に面白かったのでぜひ読んでみてほしい。

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