戻りたくない故郷でアイデンティティの危機にさらされた3人の友情の行方。少しロマンチックでかなり笑える現代小説。 Rock the Boat

作者:Beck Dorey-Stein
Publisher ‏ : ‎ The Dial Press
刊行日:June 29, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0525509151
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0525509158
適正年齢:一般(R、性描写はあるが多くはない)
読みやすさ:7
ジャンル:現代小説
キーワード、テーマ:幼なじみ、友情、恋愛、失恋、人生への失望、やり直し、故郷、ユーモア、ロマンス

ニュージャージー州の二流ビーチリゾートの町Sea Pointのワーキングクラスの家庭で育ったKate Campbellは、子供の時から勉学に勤しみ、ニューヨークで成功する夢を抱いていた。

有名PR会社で将来を有望視されていたKateは、学生時代から10年つきあって同居もしているボーイフレンドからのプロポーズを待ち望んでいた。ニューイングランド地方のオールドマネーの家庭で育ったおぼっちゃまのThomasと付き合うために多くの犠牲を払ってきたが、その努力がついに実る気配があった。ところが、プロポーズの代わりに別れを宣言され、しかも2人で暮らしていたアパートメントを出ていくように言い渡された。2人の生活費を負担していたのはKateだったのだが、アパートメントはThomasの家族が所有している。ショックを受けたKateは、衝動的に仕事もやめてしまう。Thomasとの生活のおかげで貯金がないKateは、住む場所と仕事を失ったために、しぶしぶニュージャージー州の実家に戻ることにした。

二度と戻らないつもりでいた故郷で、Kateは幼なじみで親友のZiggy Millerと再会した。Ziggyは配管工の父が亡くなってから事業を引き継いだのだが、経営について学ばなかったので父の事業について理解できないことがあって困っていた。高校のホッケーチーム時代からの親友のMiles Hoffmanはビジネススクールにも行った専門家なので父が残した記録を読めば理解できるはずだ。MilesはZiggyを助けると約束するが、なかなか戻ってこない。Milesの母はSea Pointで最も裕福なビジネスウーマンであり、彼は「Sea Pointのプリンス」と呼ばれていた。兄が徹底的に無能なので母の後継者は自分しかいないと思いこみ、西海岸で好き勝手な暮らしをしていたMilesだが、母から別の後継者を選ぶことを匂わされて慌てて故郷に戻ってきた。Kate、Ziggy、Milesの3人は、30歳を越えてそれぞれにアイデンティティの危機にさらされる……。

作者はオバマ大統領時代にホワイトハウスで働いたことがあり、From the Corner of the Ovalという回想録を書いている。小説としてはこれがデビュー作だ。政治にはまったく関係がない内容であり、chick-lit(女性小説)の雰囲気もある。でも、よく売れているchick-litよりも複雑なユーモアがちりばめられているクレバーな小説だ。

Kate、Ziggy、Milesの3人は、それぞれに故郷のSea Pointに対する複雑な心境を抱いている。利発すぎて公立学校に馴染めなかったKateは有名私立高校に推薦で合格したけれど両親にお金がなくて諦めたという過去がある。一つ年上のZiggyは成績はイマイチだったけれどホッケーでその私立学校に通い、Milesと親友になったのだった。自分が行きたくていけなかった私立学校を卒業したのに家業の配管工を引き継ぐことで満足しているZiggyにKateは苛立っている。ZiggyもMilesも本当に欲しいものが手に入らないから、その空白を埋めるために時間つぶしをしている。つまり、登場人物の誰も魅力的とはいえない。

それなのに、3人の正直なダメぶりを追ううちに、彼らの友達のような気分になってしまう。ダメな奴らだが、友達なんだからなんとか頑張って幸せになってほしいと応援したくなる。このあたりのリアルさに好感が抱ける。そして、読み終えると、なんだか心が軽くなっているところも良い。

厳密にはロマンス小説ではないのだが、ロマンス小説を求める人にもお薦めできる現代小説。

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