『The Stepford Wives(ステップフォードの妻たち)』のジェンダーを交換したら…やはりホラーなのである。 The Husbands

作者:Chandler Baker
Publisher ‏ : ‎ Flatiron Books
刊行日:August 3, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 352 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 125031951X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250319517
適正年齢:大人向け(PG15+)
読みやすさ:7
ジャンル:ドメスティック・サスペンス、ホラー
キーワード、テーマ:共働き夫婦の力関係、家事分担、マインドコントロール、フェミニズム、ステップフォード・ワイフ

Noraは表面上は21世紀アメリカのスーパーウーマンだ。素敵な夫と愛する娘がいて、もうじき弁護士事務所でパートナーになれそうなほど活躍している。しかし、現実はそう簡単ではない。

Noraの夫は「僕は他の者よりもよく手伝ってやっているのに、君はまったく評価していない」と憤るが、家事と育児はNoraの管理化にあり、自分の仕事だとは思っていない。だから「手伝ってやっている」と言うのだ。夫は自分が帰宅後に娘の面倒をみる担当の日であっても「クライアントとの食事」といった理由でいきなりNoraに任せる。Noraの男性上司は「自分は理解がある」と口では言うが、既に仕事を終えて帰宅しかけているNoraに急な仕事を依頼して遅くまでオフィスに残るよう命じる。娘のために帰宅しなければならないことを伝えると、「これだから女は雇いたくない」あるいは「だから女はパートナーにするべきではない」という対応をされてしまう。

家事、育児、仕事に追われ、睡眠不足で疲弊しきっているときに、Noraは2人めの妊娠をする。パートナーの候補になっているNoraにとってこれは最悪のタイミングだ。妊娠していることを伝えたら一度きりの機会を逃してしまう。そのうえ夫と一緒に行った妊娠検診で高血圧を指摘され、高齢男性の医師から「働きすぎないように」と指導される。Noraにとって家事と育児が疲労とストレスの最大の原因なのに、夫と義母は「仕事を休めばいい」と強く勧める。夫は彼女の弁護士としての仕事は「やりすぎ」と言うのに、家事と育児で疲弊していることについてはまったく配慮しない。むしろ、Noraが仕事を休めばそれらを自分がせずに仕事に専念できるとみこんでいるようだ。Noraは「私はこのチャンスのためにこれまでずっと努力してきたのに」と憤る。

同じころ、新しい家を探していたNoraたちはDynasty Ranchという郊外のコミュニティを見つけた。このコミュニティの妻たちにNoraは驚く。テック企業のCEO、脳神経外科医、著名な心理セラピスト、ベストセラー作家などハイパワーの女性たちばかりなのだ。これらの女性に気に入られたNoraは、夫と一緒にご近所が集まるディナーに誘われた。そして、憧れていたベストセラー作家の亡くなった夫の不法死亡訴訟を扱うことを引き受けた。

Dynasty Ranchのコミュニティと親しくなったNoraと夫は、コミュニティのまとめ役であるセラピストの心理相談を受ける。その影響で夫はこれまでよりも家事と育児を率先してやるようになり、Noraの仕事もはかどる。しかし、周囲で疑問に思う出来事が続く……。

有名なThe Stepford Wivesを読んだり観たりしたことがある人なら即座に「これは『ステップフォード・ワイフ』だ!」と連想する小説だ。この小説は、あの有名な作品を21世紀の女性の感覚でジェンダーを交換して書いたものだ。作者も主人公も若い女性だが、私のようにひとつ上の世代の女性でもNoraの心の中の叫びには「そうだよね!」と同感することが多い。Dynasty Ranchの夫たちが完璧な家事や育児をして「僕の妻は激務をこなしている」と妻の自慢をすることをNoraが羨ましく思うのも納得できる。だからといって、これを「フェミニスト小説」と呼ぶのは間違っていると思う。なぜなら、作者はこの状況をホラーとして描いているのだから。つまり、ステップフォードはワイフでもハズバンドでもホラーなのである。

雰囲気的には映画のStepford WivesよりもGet outに近い感じだった。

Noraの家庭や職場での女性差別に対するフラストレーションに対して「白人特権」を理由に批判する読者もいるようだが、すべての作家がすべての作品で人種やジェンダー多様性の問題を取り上げなければならないという感覚のほうがおかしい。映画のGet Outに対して「アジア人問題はどうなんだ?」と文句をつけるようなものだ。高学歴の白人しか出てこないが、この小説はそのコミュニティが持つ特有の問題を描いているのだから仕方ない。それを含め、私は娯楽作品として興味深く読んだ。次は夫に読ませて、2人で感想を語り合ってみたいものだ。

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