アメリカの学歴社会への風刺とブラックユーモアが効いている連続殺人スリラー For Your Own Good

作者:Samantha Downing
Publisher ‏ : ‎ Berkley
刊行日:July 20, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 384 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593100972
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593100974
対象年齢:一般(高校生以上)
読みやすさ:7
ジャンル:心理スリラー/風刺
キーワード、テーマ:アメリカのエリート、名門私立高校、名門大学進学のストレス、親の期待、teacher of the year(最優秀教員)

Belmont Academyは、アメリカ社会のエリートを多く生み出してきた名門私立高校である。それらの成功者たちは自分たちの子どももこの私立高校に送り込み、自分と同じようにアイビー・リーグ大学に進学して成功者になることを期待する。

Teddy Crutcherは、この名門高校で「teacher of the year(最優秀教員)」を受賞した超越した教師である。Teddyはそれを誇りにしているが、まだまだ周囲の者は自分を正当に評価していないとも思っている。この学校ではBelmont Academyの出身者の教師が優遇されていて、校長になれるのも卒業生だけだ。Teddyは誰よりも優れた教師だが、他の高校の卒業生なので最初から資格を剥奪されているという苦々しさがある。

Teddyが他の教師よりも優れているのは、子どもたちの将来を本当に案じているところだ。恵まれた環境で育って小賢しくなってしまった生徒は、今のうちに徹底的に叩いておく必要がある。それは、その子のためになることだからだ。今年も、そういう小賢しい生意気な男子生徒がいた。Teddyはその子のために厳しい態度を取ることを決意していた。

数年前にもそういう女子生徒がいた。他の教師は騙されていたが、Teddyは彼女のずる賢さを見抜いていた。だから、その女子生徒が大学への推薦の手紙を依頼したときに大学に直接そのずる賢さを伝える手紙を書いたのだった。そのために、彼女は希望のどの大学にも入学できず、誰でも入学できる州立大学に進学したらしかった。その子が学ぶための機会を与えてやったのに、彼女は人生に脱落してしまったらしい。素晴らしい教師であっても、子どもに素地がなければこうして失敗することもある。Teddyはそれを残念に思っている。

親たちから全面的に信頼されていたBelmont Academyだが、PTAのボランティアでの権力者である母親が学校のイベントの最中に毒殺され、その娘が逮捕される大きなスキャンダルが起こった。その女子生徒はTeddyが一目を置いている優秀な子だ。Teddyは彼女を助けてやらねばならないと思う……。

タイトルになっている「For Your Own Good」とは、たとえば親が子どもに体罰を与えるときに、「本当はこんなことはしたくはないんだよ。けれども、あなたのためを思って泣く泣くやってあげていることだ」というニュアンスで使う言い回しだ。この本は、そのニュアンスでのブラックユーモアが活きている連続殺人スリラーだ。Teddyだけでなく、その他の登場人物たちの歪んだ視点は怖いのだけれど、かなり笑える。

Belmont Academyの親たちが子どもに与えるプレッシャーは、さほど誇張ではない。私がこれまで数多く目撃した現実そのものだ。こうして小説になると滑稽だが、そのさなかにいる子どもたちにとってはホラーだ。そのあたりが、この小説では活きている。

同じ作者の前作My Lovely Wifeは大ヒットした話題作だったが、凝りすぎていてリアリスティックではなく、私はつまらなかった。今回は、風刺とブラックユーモアが効いていて娯楽作品として楽しめた。

感情移入できる登場人物は皆無だが、ダークなユーモアとツイストを求める読者は楽しめると思うのでおすすめ。

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