作者:Snoop Dogg
Publisher : Chronicle Books; Illustrated edition
刊行日:October 23, 2018
Hardcover : 192 pages
ISBN-10 : 1452179611
ISBN-13 : 978-1452179612
対象年齢:成人(お酒のコンテンツがあるため)
読みやすさ:5(スラングが多いが、文章そのものはシンプル)
ジャンル:料理レシピ本
キーワード、テーマ:スヌープ・ドッグ、The Hood(LAのヒップホップの聖地であるフッド)、OG(オリジナル・ギャングスタ)スタイル
何気なく目にしたツイートで、スヌープ・ドッグの料理本の邦訳版が出たことを知った。日本の有名な料理研究家のレビューが話題になっていたようだ。それはともあれ、以前から興味があったのでこの機会に原作を読んでみることにした。
スヌープ・ドッグは(元祖カリスマ主婦として知られる)実業家のマーサ・スチュワートと一緒に料理番組もやっているくらいで、本当に自分で料理をする人だ。人種も育った背景もジェンダーも異なるこの2人の組み合わせが絶妙なのだが、彼らは長年本当に仲が良い友達らしい。この料理レシピ本でも、スチュワートが紹介文を書いている。
あまり期待せずに読んだのだが、素晴らしいとことがかなりある本だった。
誰の本でもそうだが、特に有名人の場合にはゴーストライターや写真家など金に糸目をつけずにいくらでも雇える。だから、自分ではやっていないデコレーションや料理で素晴らしいイメージの本を作ることができる。有名人だけでなく、一般の私たちもインスタグラムなどで自分の普段の生活よりも美しいイメージを流している。
スヌープ・ドッグの料理本も写真は美しい。でも、かなり「地」をそのまま出している。原作のタイトルもFrom Crook to Cook(ならず者から料理人に)と、ヒップホップのスターらしさたっぷり。そして、彼の冷蔵庫やパントリーにある「定番」のソースや朝食のシリアルなどは、アメリカ中のどのスーパーやコンビニエンスストアでも買える安いブランドだ。
高級スーパーに並んでいるような、健康に良くて高尚なブランドはない。彼のレシピを追っていくとわかるが、LAのロングビーチで育った彼にとってはこれらが「懐かしの味」であり、どんなにお金持ちになっても、他人の目などは気にせず、堂々とその味を主張している。
お金持ちになってからその懐かしの味に加わっているのが、冷蔵庫の中身を紹介する時に出てくるシャンパンのMoetだ(歌も作っていると思う)。こういう、「ありのままのスヌープ・ドッグ」がファンにはぐっとくるところではないかと思う。
肝心のレシピについては、残念ながら現在の私が食べられるものはあまりない。50歳前から油もの、乳製品、炭水化物があまり食べられない体質になってしまったからだ。でも、読んでいると、その味が想像できて、それだけでも楽しくなった。(私が解説を書いた)ジョー・イデの『IQ』に出てくるThe Hoodの登場人物が食べていそうな料理の数々は、読んでいるだけでも楽しめる。
料理は文化である。その国々、地域で手に入るものによって食文化が形成される。それが伝統になっていくのであり、異国での旅では、その地の人々と交流したり、家庭料理をいただいたりするのが特別な楽しみになる。スヌープ・ドッグの料理本は、彼が育ったHoodの味と彼がヒップホップスターになってからの台所への扉のような感じだ。
スヌープ・ドッグの料理紹介文は、ヒップホップそのままであり、これも楽しい。前夜にパーティで飲みすぎて二日酔いの朝に飲むカクテルの紹介もまさにヒップホップのスターらしい。
Wake ‘n’ Bake Corpse Reviver
Got that nasty hangover from dropping it like it’s hot at the club a li’l too long last night? Well then, Tha Dogg’s got this hair of the dogg to get you back up and at ’em. The money ain’t sitting around waiting; you need to get up, get out, and get something.
異文化で育った私たちにとってはこのような楽しみ方ができるが、アメリカで育った若者には別の意味で良い本である。
これまで料理をしたことがなかった、特に若い男性たちが「自分も料理をしてみよう!」と挑戦して、うまく出来たことで自炊に興味を懐くようになっていることだ。
バターも生クリームも砂糖もたっぷりのレシピなので健康にはあまり良くないかもしれないが、こうやってジェンダーに関わらず若者を料理の世界に導いてくれるのがいい。ここをスタート地点にして、他の文化の料理にも手を出していく人が出てくるだろうから。
最後のほうの章では、パーティの料理が出てくるのだが、パンデミックが終わったら、友達を招いてこのレシピでパーティをやってみたいと思う日本人もいそうな気がする。