ニューヨークの出版業界の内情が興味深く読めて、かなり笑わせてくれるロマンス小説風刺のロマンス小説 Book Lovers

作者:Emily Henry
Publisher ‏ : ‎ Berkley
刊行日:May 3, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 384 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593440870
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593440872
対象年齢:一般(セックス描写シーン:3、後半のみ)
読みやすさ:7
ジャンル:ロマンス小説、chick-lit
キーワード、テーマ:ニューヨークの出版業界、文芸エージェント、編集者、家族ドラマ

売れない女優だけれどもニューヨークが大好きで、いつまでも夢を抱き続けたシングルマザーの母が急死してから、姉のNoraにとって妹Libbyの幸せを守ることが何よりも重要になった。Noraは本当は編集者になりたかったのだが、夢見がちで現実感覚がないLibbyの幸せを優先して、コミッションで収入が高くなる可能性が高い文芸エージェントになった。クライアントである作家の利益のためなら何でもするNoraは、感情抜きの冷酷さで業界で恐れられている。

20歳の若さで年上の男性と結婚して母親になっている妹との心理的な距離ができていることを案じていたNoraは、妊娠中の彼女から2人きりの旅を提案されて同意した。Noraのクライアントの作家が書いたベストセラーの舞台である南部ノースカロライナのSunshine fallsに行ったところ、想像とはまったく異なる場所であり、バケーションだった。そのうえ、2年前にクライアントの作品を拒絶した不機嫌な編集者がいて、妹は大きな秘密を隠しているようだ……。

これはロマンス小説なのだが、普通のロマンス小説とは根本的に異なる部分がある。ロマンス小説の風刺小説なのだ。

プロローグで文芸エージェントであるNoraのロマンス小説の分析があるのだが、そこに出てくる「Small Town Love Story」というサブジャンルの説明が卓越している。「大都会に住むビジネス優先の冷酷なヒーローが大企業の利益のために家族経営の小さなビジネス(クリスマスツリー農家やベーカリー)を潰すために田舎町に行く。ところがそのクリスマスツリー農家かベーカリーの女性に魅了されて、人格そのものが変わり、良い人物になる。大都市には彼の恋人がいるのだが、都市に戻ってその恋人の冷酷さに気づき、彼女を捨てて田舎の心優しき女性にプロポーズする」というまとめなのだが、Noraはロマンス小説のヒロインではなく、最後に捨てられる都市の冷酷な恋人役なのだ。だが、その捨てられる恋人にはヒーローやヒロインとは異なる深い内面や美徳があることを読者は想像もしないのである。ここがこの小説の鍵である。

私は現在『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア社)の続編のラストスパートにかかっているのだが、ロマンスジャンルのサブジャンルでこのsmall town love storyにかなりなじませていただいたので、大笑いしてしまった。「このロマンス小説は最高に面白くなりそうだ」と感じたので、わざとそこでストップして、仕事に一段落ついてから続きを読むことにしたくらいだ。

ロマンス小説の風刺小説であることも楽しいのだが、日本の読者にとっては、日本の出版業界とは異なるアメリカの出版業界の内情が興味深いのではないかと思う。私は出版業界の裏側を描いた本が好きなので、とても好みだった。

ロマンスに関しても、身長180cmのヒロインと同じくらいの身長(日本ではかなり背が高いほうだが、アメリカではそうでもない)のヒーローの組み合わせ、本を読んで編集すること以外に趣味がない2人のやりとり、ロマンス小説でよくあるタイプの「料理ができて心優しい」の反対だが「自立していて、責任感があり、大切なクライアントや家族は徹底的に守る」ヒロインの魅力、すべてがユニークで読んでいて楽しい。

何よりも、Emily Henryは文章力が卓越している作家だ。以前はファンタジーなどを書いていたのだが、ロマンス小説に専念するようになってからは全米トップクラスのベストセラー作家になった。正しい選択だったと思っている。

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