残酷な仕事にも疑問を抱かず朗らかに片付けてきた犯罪者が突然直面した謎でミッドライフクライシスに陥る近未来小説 Sleepwalk

作者:Dan Chaon
Publisher ‏ : ‎ Henry Holt and Co.
刊行日:May 24, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250175216
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250175212
対象年齢:一般(PG15)
ジャンル:文芸スリラー
テーマ、キーワード:近未来ディストピア、陰謀、カルト宗教、倫理観、ロードトリップ

50歳のWillはいくつもの仮名を持ち、ヒューマン・トラフィックから殺人まで組織の上から依頼されれば真面目に仕事として片付けるプロの犯罪者だ。犯罪者ノマドの母親が出生届けをしなかったために記録がなく、政府にとっては存在しないのと同様である。異なる仮名ごとにプリペイド携帯電話を使っているので誰にもフォローできない筈なのに、ある日突然すべての電話が鳴り始めた。電話をすべて捨てて新たに購入してもかかってくる。その相手は、Willが20歳の時に小遣い稼ぎで売った精子によってできた「娘」だと言う。最初は信じなかったWillだが、組織の同僚で昔からの友人の指図で情報を探るうちにCammieと名乗る若い女性が本当に自分の娘だと信じるようになる。Cammieによると、Willは組織に利用されていて、2人とも危機にさらされているという。どうやら、Willの誕生そのものに謎があるようなのだ……。

インターネットやテクノロジーによって簡単に操られる社会情勢と気候変動で経済的にも不安定になっている近未来のアメリカが舞台の文芸スリラーで、謎解きの好奇心と突拍子もない展開で最後まで飽きない本。主人公のWillは、朗らかで気さくだが、仕事は仕事と割り切って片付け、人間に対してはあまり深い感情を抱かないことにしている。けれども、残酷な闘犬スポーツの場から救助したピットブルのPhilだけは心から愛している。悪人ではないが残酷なことを平然とできるWillは、不思議と説得力があるキャラクターであり、感情移入もしやすい。

テーマも内容もダークなのだが、ユーモアが散りばめられていて重くない。作者のDan Chaonは20世紀半ばに活躍して「アメリカ近郊のチェーホフ」と呼ばれたジョン・チーヴァーやトーマス・ピンチョン(のパラノイア)とよく比較される現代アメリカの作家。

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