家族代々引き継がれたメイン州の土地を舞台に女性2人の80年にわたる友情を描く、19世紀の小説のような味わいの、静かな話題作 Fellowship Point

作者:Alice Elliot Dark
Publisher ‏ : ‎ Scribner / Marysue Rucci Books
刊行日:July 5, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 592 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1982131810
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1982131814
対象年齢:一般(PG12、問題表現はないがある程度の年齢にならないと理解できない内容)
ジャンル:文芸小説、歴史小説
テーマ、キーワード:女性の友情、生き方、クエーカー教徒、「土地の所有」の観念、「平等」の観念

有名な児童書作家のAgnes Leeは、フィラデルフィアの裕福な階級の女性たちを描いたベストセラー風刺小説シリーズの覆面作家でもある。若い頃に婚約したが破談になり、80代になった現在まで独身を貫いてきた。クエーカー教徒の先祖らが夏の保養地としてメイン州の自然に囲まれた景観地に築いたコミュニティ「Fellowship Point」をこよなく愛しており、次世代がリゾート開発業者に売り払ってしまうことを心配している。

Agnesが赤ちゃんの頃からの親友Polly Wisterは、彼女と同様にフィラデルフィアを拠点にしており、Fellowship Pointで夏を過ごす。Pollyが結婚したDickは哲学の大学教授で自分を高く評価しているが、AgnesはPollyのほうが頭脳明晰だと知っている。それを隠して夫を立て続け、自己中心的な3人の息子たちの言いなりになり続けるPollyに対し、Agnesはもどかしさを覚えている。

スランプに陥って文章が書けなくなったAgnesのところに、27歳の若き女性編集者Maudが「人気児童書作家」としてのAgnesの回想録の企画を持ちかけてきた。野心的なMaudのアプローチに対して苛立ちを感じていたAgnesだが次第にうちとけていく。

Agnesは人気児童書シリーズを書き始めたきっかけについて書くのを拒み続けるが、その理由を語らない。その代わりに、MaudはAgnesが亡くなった姉に対して書き綴った日記を受け取る。その中には、Agnesの人生に大きな影響を与えた一連の悲劇が綴られていた…。

イギリスで生まれ、移住したアメリカでも酷い迫害にあってきたクエーカー教徒の一部は、1680年代に彼らが安心して暮らせるコミュニティをペンシルバニア州に作った。「平和(反戦主義)」「平等」「誠実」「質素」を誓うクエーカー教徒だが、商業的な成功は否定しておらず、ペンシルバニア州フィラデルフィア市には裕福なクエーカー教徒の上流階級が存在する。

AgnesとPollyの先祖はそれを築いた人々であり、彼らも上流階級に属する。Fellowship Pointを作り上げた先祖は、この地の自然の美しさに魅了され、クエーカー教徒の信念に基づいて5つの家族のトラストを作った。家を勝手に売り払うことは禁じられており、トラストの方針は全員の投票で決まる。しかし、世代が交代するにつれ、創始者らの信念は薄らいでいる。Agnesの従弟とPollyの長男はリゾート開発業者に売り渡そうと思っており、自分が死んだ後のFellowship Pointの将来を案じるAgnesは、長年蓄積してきたもどかしさをPollyにぶつけてしまい、長年の親友は口をきかない仲になる。

この小説の魅力は、19世紀に書かれた小説のような静かな語りである。その中に、人生や宗教についての数々の疑問と考察が描かれている。たとえばクエーカー教徒だが、早期から奴隷制度に反対し、アメリカ独立戦争の時には英米のどちらにもつかずに「反戦主義」を貫いたりするなど、強い信念を持って行動してきた宗教だ。けれども、Pollyの夫Dickのように学問の上での「平和主義」や「平等」を語るのは得意だが、女性のPollyが自分よりも優れていることを認められない者が多いのも現実だ。また、創始者が「土地に線をひいて固有の資産として所有しない」という観点で作ったトラストが、後の世代になった時に深刻な問題になっている。そして、そもそも先住民族が「使わせてもらうが、自分たちが所有するべきものではない」と敬意を持って扱っていた土地を「所有」したのが「Fellowship Point」ではないか、という疑問も生まれてくる。それらの多くの疑問が、辛辣なAgnesの視点で描かれており、そこも魅力だった。

「メイン州の夏の保養地を舞台にした80代の女性2人の友情物語」というと、退屈な小説のような印象を受ける。しかも、600ページ近い。小さな出来事が数々発生するが、ものすごくドラマチックなことが起こるわけではない。とても売れそうにはない本だが、発売前後からあちこちで話題になり、私の周囲では、読んだ人全員が「面白かった!」「良い本だった!」と絶賛している優れた小説である。

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