オーディオブックのナレーターの内情が面白いロマンス小説 Thank You for Listening

作者:Julia Whelan
Publisher ‏ : ‎ Avon
刊行日:August 2, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 432 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0063243156
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0063243156
対象年齢:成人(R)
セックスシーンの描写レベル:3
よみやすさ:7
ジャンル:ロマンス小説、風刺・ユーモア本
キーワード、笑える本、テーマ:オーディオブックのナレーターの仕事、俳優業

女優として成功する夢を抱いていたSewaneeは、大ブレイクしかけた時に事故で片目を失い、オーディオブックのナレーターとして仕事をするようになった。オーディオブックのアカデミー賞に匹敵する賞も取るほど評価されていたが、学生時代からの大親友が女優として成功していくにつれて複雑な思いを抱くようになっていた。

Sewaneeは新人の頃に本名とは異なる芸名でロマンス小説のナレーションを行い、多くのファンができたのだが、実績ができてからはロマンスの仕事は断るようになっていた。けれども、急遽ブックフェアでロマンス本のオーディオブック人気ナレーターのパネルディスカッションの司会をすることを頼まれ、そのために訪問したラスベガスでチャーミングな男性と出会い、思い出に残る夜を過ごした。

LAの自宅に戻ったSewaneeは大きな仕事の依頼を受けた。最近亡くなった有名なロマンス作家が、最後の作品を彼女と、有名な男性ナレーターのBrock McNightの2人に読んでもらうよう遺言を残したのだった。大ベストセラーになるのは確実であり、報酬は魅力的だったけれども、「ロマンス小説はもう読まない」という方針で断るつもりでいた。しかし、愛する祖母が暮らしている施設の費用で大金が必要になり、引き受けることにした。別々の場所で録音をしているBrockとSewaneeは読み方などについてテキストメッセージで語り合うようになり、次第に互いに惹かれていく。けれども、どちらにも相手には伝えていない大きな秘密があった…。

作者のJulia Whelanは、十代の頃にデビューしてかなり成功した女優だが、最近はオーディオブックの仕事と執筆業に専念しているようだ。数多くの声を使い分けることでも知られ、ノンフィクション、SF、ミステリ、女性小説、ロマンス小説など幅広いジャンルを手掛けている。特にベストセラーになる話題作が多いので、オーディオブックが好きな人なら一度は耳にしたことがあるはずだ。

主人公のSewaneeと共通しているところはあるが、作者があとがきで語っているように自伝ではない。自伝ではないが、アメリカでのオーディオブックの内情がよくわかって面白い。また、オーディオブックをよく聴く人なら「わかる!」と吹き出すようなシチュエーションがあちこちに散りばめられていて、それも楽しい。

AIの声が進化していて、ノンフィクションでは近い将来ナレーターの仕事を奪いそうだという厳しい現状も描かれている。しかし、フィクションに関しては、今のところオーディオブックを「ナレーター買い」するファンが多いので、現時点ではAIになることはないと思う(というか、そう願う)。ぜひオーディオブックで試していただきたい1冊。

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