東欧でのユダヤ人迫害の過酷な歴史を、民話の改作で語るダークなファンタジー Thistlefoot

作者:GennaRose Nethercott
Publisher ‏ : ‎ Anchor
刊行日:September 13, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 448 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 059346883X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593468838
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさ:8
ジャンル:ファンタジー、ホラー
キーワード、テーマ:スラヴ民話、バーバ・ヤーガ、東欧でのユダヤ人抑圧の歴史

IsaacとBellatine Yagaは、アメリカに住むバーバ・ヤーガの末裔で、地方を放浪してマジカルな人形劇を演じる旅芸人一家の子供として育った。兄のIssacが家を出てから2人は何年も会っていなかったのだが、謎の遺産が異国から届いたという連絡を受け、兄と妹は再会した。

その謎の遺産とは、鶏の脚を持つ「Thistlefoot」という名の動く家だった。奇術師/詐欺師として放浪を続けるIssacは金儲けを考えるが、Bellatineはこの家に住みたいと願う。そこで、2人はこの家を移動シアターに作り変え、全米をめぐりながらマジカルな人形劇をすることになった。だが、祖国からThistlefootを追って来た暗黒の存在が兄妹を追い詰めていく…。

バーバ・ヤーガはスラヴ民話で有名な魔女であり、鶏の脚の上に立つバーバ・ヤーガの小屋もよく知られている。民話を研究してきた民俗学者でもある作者は、自分の先祖が現在のウクライナにある村で体験したユダヤ人迫害の歴史を知り、民話の改作を通してその過酷な歴史を伝えることを考えたという。ストーリーは、Thistlefootが語るバーバ・ヤーガとの回想と、現代の兄妹の逃亡と戦いが相互に語られる。民話の世界がベースにあるだけでなく、時に饒舌すぎるほどの絢爛な文章によって、現代のシーンにも何世紀か前の欧州のような雰囲気が漂っている。そのために途中に携帯電話が出てきて「ああ、これは現代なんだ」と驚いたりする。

過去だけでなく、現代社会でも起こっている群集心理による迫害の恐ろしさを感じるファンタジー小説であり、その意味ではホラーだ。ニール・ゲイマンのファンならきっと楽しめるだろう。

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