勇敢な女性たちによって誕生したアフガニスタンの女性18人による短編アンソロジー My Pen Is the Wing of a Bird

作者:アフガニスタンの18人の女性、プロジェクト責任者/あとがき:Lucy Hannah
Paperback, 256 pages
Publisher: MacLehose Press
Publishing date: February 17th 2022 (米国では2022/10/18, 邦訳版は10/26)
ISBN1529422213
ISBN13: 9781529422214
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:6(翻訳であることもあり、日本人にとって読みやすい平易な英語)
ジャンル:短編アンソロジー
テーマ、キーワード:アフガニスタンの女性が書いた短編集、国際的なチームワーク、紛争、戦争、タリバン、抑圧

「アフガニスタンの18人の女性による短編集」が刊行されると知ったとき、「いったいどうやってそんな本を刊行できたのだろう?」とびっくりした。タリバンが復権する以前からアフガニスタンの女性には男性と同等の権利がなかった。現在ではその少ない権利さえ奪われていることをニュースで見聞きしているが、その国で文章を書いて出版するというのは命がけの行為だと想像できる。

このプロジェクトを企画し、まとめ役を務めたLucy Hannahは、紛争地や元紛争地の作家を支援する「Untold Narratives CIC」というプログラムの創始者でありディレクターである。彼女がアフガニスタンの女性による短編アンソロジーを作ることを決意したのは2019年、つまりCovid-19パンデミックとタリバン復権の前のことだった。その時でも野心的な企画だったのに、パンデミックが始まり、それに加えてタリバンが復帰した。先が見えない不穏で不安な状況の中でこの企画は進行し、約300人の女性がソーシャルメディアやemailなどあらゆる手段を使って自分の作品を応募してきた。その中には、手書きの文章の写真を撮ってWhatsAppで送ってきた人もいたらしい。「作者にお金を請求しない出版社には地元で出会ったことがない」という人もいた。その中から選ばれた18人の作品がこのアンソロジーに収められている。

中にはオンラインで作品を発表した作者もいたようだが、多くはこれまで自分の作品を他人に読ませる機会がなかった女性たちだからもちろん編集作業が必須だ。作者の意図が失われてしまわないような翻訳も重要だ。パンデミックで移動ができないこともあり、異なる地に住んでいるボランティアたちが、顔を合わせずにして編集や翻訳の作業を行ったのだが、文章を書いた女性たちだけでなく、関わったすべての女性に危険がつきまとったことだろう。それを想像するだけで鳥肌が立つ。

これらの短編には、アフガニスタンの女性が日常生活で体験する苦難が詰まっている。自分の自由意志で結婚することが許されず、夫からの暴力や、夫の姉妹や別の妻からのいじめに耐えて小さな希望にしがみつく「ふつうの女性」たちの姿が浮かび上がる。でも、その希望が「男の子を産む」ことだったり、「指輪」だったり、「赤いブーツ」だったりするのが読んでいて辛いところだった。また、彼女たちのストーリーの中には、女性同士の嫉妬や裏切りがよく出てくる。耐えることを美徳とする考え方も深く浸透している。それらも読んでいて胸が苦しくなったところだ。でもそれは、女性に与えられた世界がとても小さくて、その世界での選択肢がほとんどないからだろう。

結婚式での自爆テロで多くの人が死んだ実際の事件を元にした短編もあったが、そんなふうに死と隣合わせで生きながらも、危険だと知りながらも、与えられた狭い世界の中で「書く」ことに生きがいを見出す女性たちの姿に感銘を覚えた。

同時に、自分が幸運な時代の幸運な場所に生まれたことを改めて自覚し、感謝の気持ちを抱いた本でもあった。

18人の作者のうち何人かは海外に逃れることができたようだが、翼を得た彼女たちがペンの力を増強して羽ばたくのを心から願っている。

Leave a Reply