オバマ大統領の2022年推薦書のひとつ。語り手が「信頼できない語り手」の意図を最後まで推測し続ける文芸スリラー Mouth to Mouth

作者:Antoin Wilson
Publisher ‏ : ‎ Avid Reader Press / Simon & Schuster
刊行日:January 11, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 192 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 198218180X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1982181802
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:6(非常にシンプルだが、ニュアンスを読み取る必要がある)
ジャンル:文芸スリラー、文芸小説
テーマ、キーワード:人命救助、人生の選択肢、善と悪

語り手である作家は、ニューヨークのJFK国際空港で大学時代の知り合いJeff Cookと偶然に再開した。2人が乗るフライトが大幅に遅延しており、ファーストクラス席のJeffは、エコノミークラスで旅する作家をファーストクラス・ラウンジに招待した。そのラウンジで、Jeffは大学卒業後に自分に起こったことを語り始める。

Jeffはある朝、ビーチで溺れている男の命を救った。自分が救った人物のその後が気になったJeffが調べたところ、男は有名な画商のFrancis Arsenaultだった。Jeff はFrancisに好奇心をいだいて追うようになり、自分を紹介するべきなのかどうかを迷い続ける。そして、彼のビバリーヒルズの画廊が求人していたので応募し、そこで働くことになった。Francisの命を救ったのがJeffだということをFrancis自身が知っているのかどうか、Jeffにはわからない。知っていることを示唆する微妙な言動もあるが、その逆のこともある。

Francisの人となりを知るにつれ、Jeffは自分が彼の命を救ったのは良いことだったのかどうか迷うようになる。迷いながらも、Francisと彼の家族に近づいていく…。

オバマ大統領が2022年夏のreading listに挙げたこの文芸スリラーは、語り手である作家が、Jeff Cookという「信頼できない語り手」の打ち明け話を聴く、という設定だ。読者にとっては、この「距離感」が重要になる。Jeffが打ち明ける相手に作家を選んだ理由は、“You knew me then. That I had a good heart(君はあの頃の僕を知っているよね。僕が良い心根の持ち主だったってことも)”という言葉からも推測できるが、「自分は善良な人間なのだ」と信じたい気持ちがあちこちに出てくる。作家は、Jeffの語りの意図を推し量りながら耳を傾けるのだが、読者も同様に距離を持ってJeffの語りを聴くことができる。

Jeffの打ち明け話の理由は何なのか? そして、驚きのエンディングの意味は?

読後にもこれらを反芻して楽しめる、静かにジワジワ面白い文芸スリラーである。

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