英国に住むガーナ人女性の家族や恋愛の悩みについ共感してしまう話題作 Maame

作者:Jessica George
Publisher ‏ : ‎ St. Martin’s Press
刊行日:January 31, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250282527
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250282521
適正年齢:一般(R)
読みやすさレベル:7
ジャンル:現代小説、移民小説、chick-lit
テーマ、キーワード:英国に住むガーナ人、家族からの軋轢、人種差別、恋愛の悩み、人間関係

Maddieの両親はガーナから英国に移住したのだが、母親はMaddieが子供の頃からガーナでの「ビジネス」を言い訳にロンドンの家を留守にすることが多い。Maddieが大学を卒業して仕事をするようになってからは、パーキンソン病になった父親の世話をMaddieに押し付けたまま、ガーナから「お金が足りなくなった」と送金を頼んでくる。母親らしいことをしたことがないくせに、母はMaddieにあれこれと生き方の指図だけはする。Maddieには本当はやりたい仕事があるのに、黒人女性であるために選択肢は限られている。嫌な仕事であっても、給料が低くても、生活のためには我慢して一生懸命こなすしかない。心理的に問題を抱えている女性ボスの横暴な振る舞いに耐えながらなんとか貯金をしているのに、母はそのお金を軽く要求してくる。兄もMaddieを助けることはなく、すべてを妹に押し付けている。誰もが、それが娘としてのMaddieの義務だとみなしているのだ。

重圧から抜け出し、自分自身の人生を生きるために、Maddieは初めて実家を離れてアパート暮らしをすることに決める。ところが、自分の失敗ではないことで解雇され、そのうえ20代なかばになって初めて心を許した白人のボーイフレンドに裏切られる。若者らしい生活を体験するために、仕事の後に友人とお酒を飲みにいったり、インターネットでデートの相手を見つけることにも挑戦してみるMaddie。遅咲きで体験する青春に混乱しながら、Maddieはようやく社会や家族が自分に押し付けていることの理不尽さと、理不尽さをそのまま受け入れてきた自分の心理的な問題について考えるようになる…。

今年の話題作のひとつであるこの小説は、ロンドンに住むガーナ人女性が主人公であり、それがこれまでベストセラーになってきた英国のchick-lit(女性小説)と大きく異る。私は英国のchick-litはヒロインが(男性に好かれるためにはそうでなければならないという観念があるのか)「おばか」であることが多くて好みではないのだが、Maameはそれらとは異なる。一生懸命生きていて、周囲から利用されるだけ利用されていて、そこから抜け出したいけれどもどうすればいいのかわからないという「ふつうの女性」の悩みが感じられる。これは、日本人読者がかなり共感できる部分ではないかと思った。

読みやすくて、共感しやすくて、そして最後にほっとするので、疲れている時の読書におすすめ。

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