作者:Michael Bennett
Publisher : Atlantic Monthly Press
刊行日:January 10, 2023
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0802160603
ISBN-13 : 978-0802160607
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:8
ジャンル:犯罪小説、スリラー
テーマ、キーワード:ニュージーランド、先住民、マオリ、猟奇殺人、歴史、政治
ニュージーランドのオークランド市の女性刑事Hana Westrmanは、大学生の娘を持つシングルマザーでもある。有能なベテラン刑事だが、マオリでしかも女性であるために、偏見や差別から逃れることはできない。
猟奇殺人が起こり、引き続いて自殺と思われる事件が起こった。誰もその2つは無関係だとみなすが、Hanaだけは2つの事件はつながっていると信じる。それは、犯人がHanaに謎のビデオを送りつけてくることもあったが、現場に遺されていた不思議な渦巻き模様でHanaの直感が正しかったことがわかる。Hanaは調査のリーダーになるが、レイプ事件で有罪判決を受けながらも、親のコネクションがある白人男性であるために軽く罪を逃れた男の嘘のためにHanaは調査から外されてしまう。
けれどもHanaなしには事件の解決は不可能だと信じている同僚の元夫が無許可でHanaを調査に含める。
この事件には、160年前に起こったイギリスからの入植者による先住民チーフの殺人事件が関わっていることが見えてきた。誰かがその殺人に対して”Utu”(マオリ社会で調和や秩序を維持して働く規範の一つ。タ「罰」、「報復」、「返礼」などのさまざまな意味になる)を行おうとしているらしい。Hanaはマオリ人であり、マオリ語も話すが、新人の警官だった時にデモをしていたマオリ人の女性を逮捕したことで「裏切り者」とみなされている。白人とマオリのハーフである娘も、母を裏切り者だと糾弾する。
白人から土地を奪われ、虐げられ、いまでも平等に扱われないマオリたちの憤りと、仕事の義務と民族のアイデンティティの間で苦しむヒロインの葛藤が描かれていて、そこに読み応えがある犯罪小説。
男性作家であるためか、母と娘との関係の葛藤については描ききれていない部分の歯がゆさを感じたのだが、作家はマオリなので、過去の歴史と現在のアイデンティティの折り合いという難しいテーマを他角度的に扱っているところが良かった。
これはひとつの作品として読み切りできるものだが、どうやらHanaが主人公でシリーズになりそうな気配だ。