高齢の日系カナダ人女性が死神の手を逃れつつ壊れた人間関係を修復する、奇妙で暖かいグラフィック・ノベル Shadow Life

日本語版が出ました。

作者:Hiromi Goto、Ann Xu(イラスト)
Publisher ‏ : ‎ First Second
刊行日:March 30, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1626723567
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1626723566
対象年齢:一般(PG12)
読みやすさレベル:5(文章はシンプルだが、意味を理解するためにはベーシックな知識が必要な部分がある)
ジャンル:グラフィック・ノベル(英語圏の漫画に匹敵するもの)
テーマ、キーワード:老い、死、家族、友人、和解、日系カナダ人
賞:2022 Asian/Pacific American Literature Award Winner for Adult Fiction、2022 L.A Times Book Prize Finalist

76歳の日系アメリカ人Kumikoは、夫を亡くして一人暮らしであることを案じた娘たちから高齢者向けのアシステッドリビングに入居させられてしまったが、一人暮らしに戻りたくて施設から逃げ出した。独断的で他人の意見に耳を傾けない長女によって施設に戻らされる恐れがあるので、Kumikoは誰にも居場所を知らせずにアパートメントに住み始めた。しかし、Kumikoを追いかけているのは、娘たちだけではなかった。死の影の存在を察知したKumikoは、死神を出し抜いて少し時間をもらおうとする…。

若者は高齢者のことを判断力がない子供のように扱いがちである。加齢とともに行動力も思考力も鈍くなってくるのは事実だが、子供に戻るわけではない。Kumikoがバスの中で”I don’t feel old inside.”と心の中でつぶやいているが、心の中は子供の頃から連続している「自分」でしかない。思い通りに身体や頭が動かないことにフラストレーションを覚えながらも、最後まで思いのままに生きたいと思っている人のほうが多いだろう。だからKumikoの長女には(そういうキャラだとわかっていても)イライラせずにはいられなかった。

私のアメリカ人の義母は88歳なのだが、義父が亡くなってからずっと一人暮らしをしている。慢性疾患もない健康体であり、運転も自分でするし、ひとりで飛行機に乗って旅行にも行く。私よりも記憶力はいい。その義母について、数年前に義弟と結婚した義妹が「キャロリンが2階にベッドルームがある家で一人暮らしをしているのはunacceptable(容認できない)。息子である兄弟3人で話し合ってキャロリンがアシステッドリビングに入居するよう説得するべき。私は知人のコネを通じて、最も人気があって待ち時間が長いAへの入居をアレンジできる。既にその手配はしたから」と言ったとき、私は怒りを抑えながら「最後まで一人暮らしをしたい人はいますよ。キャロリンの意思を重視してあげるべきでしょう」となるべくやんわりと言った。ところが義妹は「それで怪我をしたらどうするの? こういうことは、子供たちが決めてあげるべき」と強く主張する。だから私も「これはキャロリンの人生なんだから、他人が勝手にどれが正しいか決めるものではないでしょう?」と強い口調になってしまった。このグラフィック・ノベルを読みながら、その出来事を思い出していた。

Kumikoはバイセクシュアルで、愛する夫と結婚する前には女性の恋人がいた。その女性と50年ぶりに再会するのだが、別れた理由には当時の政治的な背景があり、これがまた切ない。もちろん長女は、母親に若かりし頃があったとは思わないので、それすら怒りの材料にしてしまうのだが…。

死神との騙し合いもなかなかユニークであり、キュートなところとしんみりするところが混じり合う面白い作品だっが。ニキ リンコさんの翻訳で日本語版が刊行されたので、ぜひ読んでみてほしい。

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