日本から想像しにくいアメリカのリアリティを詰め込んだ、笑いながらも胸が痛くなる児童書 Simon Sort of Says

作者:Erin Bow

Publisher ‏ : ‎ Disney-Hyperion
刊行日:January 31, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1368082858
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1368082853
対象年齢:Middle-grade(小学校高学年から中学生)、PG 8
読みやすさレベル:5
ジャンル:児童書、現代小説
テーマ、キーワード:子供のトラウマ、National Quiet Zone、友情、ユーモア

12歳の少年Simonと家族は、とある出来事のために故郷のネブラスカ州オマハ市を離れてGrin and Bearという小さな町に引っ越した。カトリック教会でのとある出来事が理由で解雇されたdeacon(終身助祭父で結婚できる階級)の父がここで仕事をみつけたこともあり、母が葬儀社のマネジメントの仕事をみつけたこともある。けれども、さらに重要な理由は、この町が「National Quiet Zone」だということだ。National Quiet Zoneとは、研究のために広範囲(実際にヴァージニア州に存在するものは、34000平方メートル)にわたって電波の仕様が禁じられている場所である。電話やインターネットはもちろん使えない。

オマハ市での出来事は、Simonの名前でグーグル検索をすればすぐにわかる。Simonは、その出来事で強いトラウマを抱えているのだが、インターネットが使えないこの場所なら誰もグーグル検索しない。過去を過去に置き去りにして、新しいSimonとして学校で友達を作ることもできる。

Grin and BearがNational Quiet Zoneに認定されているのは、宇宙の他の生命体との交信を試みる研究が行われているからだった。それ以外には農家しかない。ゆえに、学校にいるのは物理学者の子供と農家の子供である。Simonは、アルパカが引き起こした大災難や、父が間違ってリスに聖餐用パンを与えてしまった出来事などを面白おかしく語り、新しい場所で新しいSimonになろうとする。そして、物理学者の息子と農家の娘の2人と親友になるが、彼らを喜ばせようとしてやったことが災難をもたらす…。

読者は最初のうちになぜSimonと彼の家族がこんなに不便な場所に引っ越してきたのかよくわからない。Simonはアルパカについて語るが、その事件が彼にこれほどのトラウマを与えたとは想像しがたいので、彼がなにか重要なことを隠していることがだんだん見えてくる。それは、アメリカの学校では、いつ起こるかわからない恐ろしい現実である。

Middle-grade(小学校高学年から中学生が対象)で、しかも全体的にドタバタ喜劇的なこの小説で扱うには重すぎるテーマだと思う読者もいるだろう。だが、作者Bowの子供もSimonのような悲劇的な結果にならなかったものの似た体験をしており、これが日常的な恐怖になっているアメリカの学校の現実がある。その恐怖に対して、ユーモアで対応する小説ともいえる。

この小説には「National Quiet Zone」や母が働いている葬儀社、宇宙の未知の生命体との交信といった、いくつかの風変わりな要素があるのだが、作者はParticle physics (素粒子物理学)を専門にしていた物理学者なので、ハチャメチャに感じる部分も「おおそうなのか」と面白く読める。

日本ではまだキンドル版が出ていないようだが(あるかもしれないが探せなかった)、Audibleはあるようなのでそちらで聞いてもいいかもしれない。

 

Leave a Reply