アメリカのミレニアル世代の特徴を描く2023年の話題作のひとつ。「ダークアカデミア」に属する文芸スリラー I Have Some Questions for You

作者:Rebecca Makkai
Publisher ‏ : ‎ Viking
刊行日:February 21, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 448 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593490142
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593490143
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:8
ジャンル:文芸スリラー、現代小説、ミステリ
テーマ、キーワード:寄宿制高校、ダークアカデミア、過去の殺人事件、冤罪、キャンセルカルチャー、米国ミレニアル世代の倫理観

40歳近くになり映像プロデューサーかつポッドキャスターとして成功したBodieは、別居している夫の隣に住み、2人の子供を一緒に育てている。子供時代に大きな悲劇を体験したBodieは、裕福な夫婦からの援助を受けてニューハンプシャー州にある名門寄宿制高校Granby Schoolで学んだ。しかし、田舎での極貧生活しか知らないBodieにとって裕福な学生が集まる名門校での生活は苦痛そのものだった。惨めな4年間を過ごした母校からポッドキャストの短期コースを教える仕事を依頼されたBodieは、個人的な理由もあって、20年以上離れていた母校に戻ることにした。

BodieがGranbyの生徒だったとき、元ルームメイトの少女Thaliaが殺害される事件があった。学校のアスレチック・トレイナー(教師ではなく、体育や部活動の指導係)だったOmar Evansが逮捕され、有罪判決を受けて現在も服役している。ところが、「True Crime Podcast(実際に起きた事件を調査し直して解決したり、真犯人を見つけようとするポッドキャスト)」のブームでThaliaの事件を見直そうとする者が現れ、Omarは無実だという主張がネットで広まっていた。True Crimeのポッドキャストで有名になっているBodieは、自分に近すぎる事件なので直接には関わりたくない。だが、自分が教えるコースで現在のGranbyの学生がこの事件に興味を抱いているのを利用して、調査に手を貸すようになる…。

主人公のBodieは高校の頃に同級生の男子から執拗な性的ハラスメントを受け続けた。殺された少女Thaliaが転入した時にルームメイトになったが、Thaliaはすぐに人気者になり、彼女の取り巻きから変人として扱われたことがトラウマになっている。あの頃のことを考えないようにしてきた彼女だが、20年以上たって精神的に成熟した今振り返ると、Omarが犯人だと全員が決めつけた背後には人種差別の意識があったのではないかと思うようになる。学校と町の警察が都合の良い犯人を見つけてきちんとした調査をせずに事件解決にしてしまったのではないかと。そして、当時Thaliaの周囲にいた人々をひとりずつ検証しはじめる。Bodieは特にある人物(小説ではYouとして語られている)を疑っている。

Bodieは夫と別居しているが離婚はせずに隣で暮らして一緒に子供を育てている。かなり身勝手そうな年上の夫の恋愛の相談にまで乗っており、夫が以前付き合ったパフォーマンスアーティストが自分たちの過去の関係は「グルーミングだ」とツイッターで糾弾した時には、「それはセクシャルハラスメントではないと思う」といった内容の擁護をしてツイッターで叩かれてキャンセルにあう(私が『アメリカはいつも夢見ている』の中で書いたコラムのひとつに出てくるようなケース)。その結果、自分の番組まで失う危機に直面する。こういった、キャンセルカルチャーを含めた現代アメリカのミレニアル世代からZ世代の状況も描かれていて、そこも面白いところである。

この小説はDonna TarttのSecret Historyを代表とする「Dark Academia」というサブジャンルに属する文芸スリラーである。Dark Academiaとは名門校(多くの場合は大学)を舞台にしたダークな秘密がかかわるミステリ・スリラーである。I Have Some Questions for YouもDonna Tarttのように、ストレートなミステリやスリラーではなく、文芸小説の要素が強く、スッキリとした終わり方は期待するべきではない。スッキリはしないけれども、だいたい何が起こったのかはわかる。

モヤモヤした感じが残るところが、この小説の特徴であり、価値があるところなのだろう。

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