全米図書賞とプリンツ賞を受賞した、パキスタンからの移民二世たちの胸が痛くなる葛藤を描いたYA小説。 All My Rage

作者:Sabaa Tahir
Publisher ‏ : ‎ Razorbill
刊行日:March 1, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 384 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593202341
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593202340
対象年齢:高校生(PG15)
読みやすさレベル:7
ジャンル:YA、青春小説、文芸小説
テーマ、キーワード:アメリカの移民、差別、虐待、家族、友情、成長物語
文学賞:プリンツ賞、全米図書賞受賞

Misbahはパキスタンで作家になることを夢見る少女だった。けれども、見合い結婚とその後の悲劇でアメリカに移住してカリフォルニアの砂漠にあるモーテルを経営することになる。面倒見が良いMisbahは、パキスタンでの災害で両親を失って叔父に引き取られた幼い少女Noorを娘のように面倒をみるようになる。だが、Noorの叔父はそれを快く思っていない。

Misbahの息子Salahudinは学校で孤立していたNoorと仲良くなり、2人は親友として育った。思春期になり、Salに恋心を抱くようになったNoorはSalから残酷な言動で拒絶され、それ以来2人は口をきかない仲になる。MisbahはNoorにテキストメッセージを送ったり、電話をしたりするが、Salとの間に起こったことを恥じるNoorはそれらを無視してきた。Salは重圧に負けてアルコール依存症になっている父を憎んでおり、自分自身が抱えている心の傷を誰にも語ることができない。

夫の援助なしにモーテルの経営をしているMisbahには経済的な余裕も時間もない。そのために定期的な人工透析を怠り、腎不全が急速に悪化する。その悲劇を機にNoorとSalはわだかまりを持ちながらも再び接触することになる。しかし、Salの安易な行動がNoorの将来を破壊する可能性が出てくる…。

この本の著者Sabaa TahirはYAファンタジーの『An Ember in the Ashes』でデビューし、一躍ベストセラー作家になった。その当時に読んだTahirの経歴で「カリフォルニアの砂漠の中にあるモーテルで育った」という部分がなぜか心に残っていた。だから、Salの両親がモーテルを経営しているという設定に自伝的な要素を感じた。もちろん自伝ではないが、最初のうちは英語が話せず、後には学業で優秀になったNoorが受ける執拗な差別と嫉妬は作者自身が体験したものではないかと想像できる。

ともかく、読んでいて辛い本である。特にNoorの視点の部分では、「もうこれ以上は耐えられない」という気分になる。虐待を与える叔父について、叔父自身がNoorに植え付けたのだろうと思われる「でも、叔父は自分を犠牲にして私を救ってくれたのだ」と何度も言い聞かせる部分には涙が出てくる。この心理は、虐待の被害者に共通するものだろう。最初のうちはとても身勝手に感じるSalについても、Misbahが語り手の部分で理解できるようになってくる。

2人は、これ以上悪くなれないような境遇に陥るのだが、そこで諦めずに最後まで読んでほしい。ちゃんと希望の光が待っていてくれるから。

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