オプラ・ウィンフリーのブッククラブ、100冊目の記念的な選書 Hello Beautiful

作者:Ann Napolitano (Dear Edward)
Publisher ‏ : ‎ The Dial Press
March 14, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 400 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593243730
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593243732
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:7
ジャンル:文芸小説
テーマ、キーワード:家族ドラマ、姉妹の関係、愛の異なるかたち
特記:オプラ・ウィンフリーのブッククラブ選書、100冊め

幼い娘を失った悲しみから息子を無視し続けた両親のために、Williamはバスケットボールだけを生きがいにして育った。バスケットボールの奨学金で入学した大学でWilliamは野心的で活発なJuliaに出会った。シャイで自信に欠けるWilliamは、自分の代わりに決断してくれるJuliaにある種の安心感を懐き、Juliaの誘いで家を訪問した時にPadavano一家そのものに惹かれた。

詩を愛するJuliaの父は心優しいが、野心に欠けている。それを不満に思う母親は、強い気性で一家をひとつにまとめている。長女のJuliaと最も仲が良いのは次女のSylvieで夢見がちな読書家。アーティストを目指すCeceliaと子供が大好きなEmelineは双子だが性格は異なる。Williamは、初めて会ったときから自分を家族の一員として受け入れてくれたPadavano一家そのものに惚れ込む。

Juliaの計画に従って結婚し、大学院に進んで大学教授への一歩を踏み出したWilliamだが、本心ではそれが自分の求めたことではないことを知っている。それでもJuliaを満足させるために努力していたのだが、Juliaが妊娠してパニックに陥る。Williamは強い性格のJuliaに子供の頃からの精神的なトラウマの影響を打ち明けられず、Juliaの計画を遂行できない自分を追い詰めていく。そして、Juliaが許せないある決断をする。

その決断の結果JuliaとWilliamは異なる人生を歩むことになるのだが、その事件にまつわるSylvieの行動により、それまで互いの影のように寄り添っていたJiliaとSylviaは何十年も口をきかない仲になる。そして、強い絆で結ばれていた家族は分断される…。

現在はあたりまえのようになったブッククラブ(bookclub)の先駆者的存在は、オプラ・ウィンフリーのブッククラブである。そのオプラ・ウィンフリーのブッククラブで、100冊目という特別な選書になったのが本書である。

オプラ自身も100冊目という記念的な本には特別配慮したようである。出版社やエージェントはいつも以上に必死に「これがいいですよ」とARCを送ってきたようだが、彼女は誰の意見も重視せずに自分で本を選ぶことでも有名だ。現在ではリース・ウィザースプーンなどの有名人のブッククラブも人気になっているし、売れる冊数ではTikTokの#booktokがパワフルになってきている。けれども、「信頼性」では今でもオプラの選書がトップの地位に君臨している。

作者は「Read with Jenna」の選書になったDear Edwardで一躍名前を知られるようになったが、NYタイムズ紙の記事によるとDear Edwardを出版する前には80もの文芸エージェントから拒否され、ようやく得たエージェントが死亡するという苦労をしている。教師や編集、スティング夫婦のパーソナルアシスタントなど多様な仕事をしながら書いた2つの小説は出版社に売ることができず、鬱にも苦しんだという。前回のDear Edwardの執筆には8年もかかったということだ。それを知って読むと、彼女の小説の味わい方も変わるかもしれない。

オプラがこの本を気に入った理由のひとつは『若草物語』の近代版である4人姉妹の描き方のようだ。実際にこの小説でも姉妹が「ジョーは誰で、ベスは誰」といった会話を交わすのだが、『若草物語』を読んで育った読者にとってぐっとくるのが姉妹の関係であろう。この姉妹の関係を際立たせる脇役が、野心に欠けるが心優しい父親とWilliamである。

大きなドラマが起きるわけではないが、静かに人間の生き様を語る良い小説である。

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