アメリカ征服を狙っていたクー・クラックス・クランの運命を変えた、ある女性の殺人事件 A Fever in the Heartland

作者:Timothy Egan(全米図書賞を受賞したThe Worst Hard Timeの作者)
Publisher ‏ : ‎ Viking
刊行日:April 4, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 432 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0735225265
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0735225268
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:8
ジャンル:歴史ノンフィクション(アメリカ)、ナラティブ・ノンフィクション
テーマ、キーワード:20世紀前半のクー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan、略称KKK)、白人至上主義(white supremacy)、反移民主義、人種差別、殺人

政治や歴史にさほど詳しくない人でも、アメリカの秘密結社「クー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan、略称KKK)」の名前や頭が尖った三角の白頭巾や白装束のことは知っているはずだ。

KKKが誕生したのは19世紀のことだが、有名なのは1920年代に全米で政治的な力を持った第二期のKKKである。全盛期の1924年から25年には5〜6百万人のメンバーがいたと推測されている。当時には、インディアナ州のように警察官、検事、裁判官、政治家のほぼ全員がKKKのメンバーになっていた場所が少なからずあり、そのような地域では彼らに逆らうことは実質的に不可能だった。

全米でのKKKの勢力、特にインディアナ州でのメンバー拡大に貢献して「グランド・ドラゴン」という神のような存在として君臨したのがD.C. Stephensonだった。チャーミングでカリスマ性があるStepehsonは天才的な詐欺師であり、ハッタリと脅しでトップの座につき、KKKのメンバーを警察官、裁判官、政治家に就任させて陰の権力を握った。KKKは、「アメリカで生まれた白人のプロテスタント」のみを純粋なアメリカ人とみなしており、その純粋なアメリカを汚す「劣った」存在である黒人、ユダヤ人、カトリック教徒、アジア系移民を排除する方針で一致団結していた。KKKは飲酒や性のフリーダムも敵視しており、禁酒法にも賛成の立場だった。倫理的に崇高なポジションでプロテスタントの白人を取り込み、勢力を拡大していったのだが、D.C. Stephenson自身は何度も結婚し(重婚も複数あった)ては妻に暴力をふるい、子供には養育費も払わず、数え切れないほどのレイプとレイプ未遂を繰り返してきた。けれども、Stephensonは “I am the law in Indiana (われこそが、インディアナ州の法である)”と、何をやっても罪に問われないことを豪語していた。

インディアナ州を陰で操っていることを自負するStephensonは、上院議員、そして大統領になることを考慮していた。彼が傲慢さのピークで犯したのが、一般女性のMadge Oberholtzerの誘拐、レイプ、殺人事件だった。Madgeは、医師が「回復は望めない」と諦めてからも苦痛の中でしばらく生き続け、弁護士のもとで事件の詳細な証言を残した。州の教育担当者として仕事に生きがいを見出していたMadgeが嫌な相手であるStephensonを邪険にできなかったのは、仕事だからだ。Stephensonから何度言い寄られても断り続けた結果として残酷な最期を迎えたMadgeや彼女の両親の気持ちを想像するだけで悔し涙が出る内容なのだが、この証言が陪審員の心を動かし、D. C. Stepensonは「第二級殺人(second-degree murder)」の有罪判決を受けた。これは、「われこそが法である」と豪語していたStephensonや、彼が逮捕された後に自宅でStephensonを優遇した保安官が予測しなかった結果だった。

この頃には全米でKKKの過剰なリンチ事件や殺人事件が起こっており、それに加えてこの事件がKKKのイメージを下げ、次第にKKKはパワーを失っていった。

この本のサブタイトルには「The Ku Klux Klan’s Plot to Take Over America, and the Woman Who Stopped Them(クー・クラックス・クランによるアメリカ乗っ取りの陰謀と、それを阻止した女性)」とあるが、これは少しミスリーディングな副題だと思った。最期までStephensonの言いなりになることを拒否したMadgeの死が無駄にならなかったことには感謝するが、彼女の死だけがKKKを阻止したのではない。攻撃のターゲットになった黒人、ユダヤ人、カトリック教徒も根気よく戦っていたのである。そして、Madgeの死を無駄にしないように戦った検事の勇敢さも。

それにしても、1920年代のKKKとStephensonは、まるで2015年から現在に至るMAGA(Make America Great Again)信奉者とトランプのようだ。1990年代にトランプから性的暴行を受けたジャーナリストのE. Jean Carrollがトランプを訴えた民事訴訟が現在進行中だが、Carrollにこそ、生きたままで「the Woman Who Stopped him」になってほしいと心から願っている。

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