ベトナム戦争で難民になった姉弟の葛藤を描くWomen’s Prizeロングリスト Wandering Souls

作者:Cecile Pin

Publisher ‏ : ‎ Henry Holt and Co.
刊行日:March 21, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 240 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1250863465
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1250863461
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:8(文章はシンプルだが、途中にストーリーとは異なる文章が挟まれてくるので混乱する可能性あり)
ジャンル:歴史小説、移民小説
テーマ、キーワード:ベトナム戦争、ボート難民、Operation Wandering Souls(ベトナム戦争での米軍の作戦名)、サバイバーズ・ギルト (Survivor’s guilt)
文学賞:Women’s Prize ロングリスト

ベトナム戦争のサイゴン陥落により16歳の少女Anhの両親は叔父が住んでいるアメリカへの移住を計画した。このまま故郷に残ると共産主義陣営からターゲットにされることがわかっていたからなのだが、子供たちはその事情は知らず、アメリカでアメリカ流のエキサイティングな暮らしをする夢をみていた。Anhがまず弟2人を連れて香港に向かい、残りの家族は別のボートで後を追うという予定だった。しかし、再会はかなわず、Anhは変わり果てた家族の遺体を確認することになる。両親にアメリカ移住の夢を植え付けた叔父を恨むAnhの一言により、Anhたちきょうだいはアメリカではなく、イギリスに移住することになった。

親や幼いきょうだいが命を犠牲にしてイギリスに移住できたというのに、難民として扱われる彼らはイギリス国民として社会に溶け込むこともできず、弟のひとりは無職でのらりくらりと生きている。Anhは弟たちの将来を案じ、彼らのために自分を犠牲にし、同時に自分たちが社会経済的に成功しないと死者に対する裏切りになるというサバイバーズ・ギルト (Survivor’s guilt)に苦しむ。しかし、ある時弟から言われたある言葉で自分自身の人生を考え直すようになる…。

小説のタイトルになっている「Wondering Souls」は、ベトナム戦争における米軍の心理作戦「Operation Wandering Souls」からきている。ベトナムでは死者は自分の故郷で正しく葬られる必要があり、そうしないと魂は永遠にさまようと信じられている。米軍はその迷信を利用し、ベトコンの士気を弱めるために死者の幽霊の音を録音して流すなどの心理作戦を行った。この作戦名が「Operation Wandering Souls」なのだ。

Operation Wandering Soulsの史実に加え、マーガレット・サッチャー政権時代の移民政策についても、フィクションの新聞記事などがAnhたちのストーリーに入り込んでくる。そして、Anhとは異なるナレーターが加わってくる。そのうちにこのナレーターが作者らしいということがわかるのだが、そういう少し入り組んだ構成も活きている。

由緒あるイギリスの文学賞Women’s Prizeのロングリストに入ったデビュー小説は、短いけれども、読後長く続くインパクトがある。

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