裕福な家庭の家を片付ける透明人間的な存在であるメイドの過去と復讐劇 The Maid’s Diary

作者:Loreth Anne White
Publisher ‏ : ‎ Montlake
刊行日:March 1, 2023
Paperback ‏ : ‎ 379 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1542034450
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1542034456
対象年齢:一般(PG15+)
ジャンル:スリラー、ミステリ
テーマ、キーワード:社会経済的格差、有害な男らしさ、メイド、性犯罪、復讐劇

Kit Darlingは評価が高いベテランのメイド(掃除婦)だけれども、隠れた依存症がある。それは掃除している家族の持ち物をsnooping(覗き見、捜索)する癖だ。裕福な家族にとってメイドは背後で働く使用人でしかなく、そこにいることさえ忘れられている。そのうえ、たいていの家族は、メイドが掃除している最中には家を留守にするので、さっさと仕事を終えたらゆっくりとクロゼットなどを覗き見ることができるのだ。いけないことだとはわかっているが、そこで知った家族の秘密を暴露するわけではないし、他人に迷惑を与えない無害な趣味だとKitは思っていた。しかし、新しいクライアントである元オリンピック金メダリストの夫と妊娠中の妻が隠していた秘密はこれまでとはまったく異なるものだった。それは、Kit自身の過去と深く繋がっていた。

秘密が漏れたらクライアントの人生は崩壊する。ゆえに殺人を犯してでも守りたい秘密なのだが、Kitはあえてその危険に手を出そうとする。そこからドミノ倒しのように次々と事件が起きていく…。

裕福で人気者のアスリートなら何をしても許され、社会経済的に弱い立場の犠牲者のほうが社会から攻撃されて人生を破壊される。その理不尽さがメイドであるKitの過去から浮かび上がってくる。いくつかの登場人物の意図と、彼らの行動のもたらすチェーンリアクション、そして殺人…と最後までハラハラどきどきさせてくれる「夏の読書」にピッタリのスリラー。

アマゾンの出版社から多くのミステリ作家やロマンス作家がベストセラー作品を出すようになっているが、品質がいまひとつなことが多い。けれども、Loreth Anne Whiteの作品は、他の大手出版社の人気スリラーと同格で、読み応えがある。特に今回は社会経済的格差や有害な男らしさ、そして性犯罪の加害者と被害者の立場など現実社会の問題に光をあてているところが良かった。

読者を騙すための工夫があちこちに散りばめられているので、スリラーに慣れすぎた人でも最後まで楽しめるだろう。日米どちらでもKindle Unlimitedなので、軽く試すこともできる。

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