アメリカで最も有名な連続殺人をモデルに、被害者である若い女性への社会の不当な扱いに焦点をあてた文芸スリラー Bright Young Woman

作者:Jessica Knoll
Publisher ‏ : ‎ S&S/ Marysue Rucci Books
刊行日:September 19, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 384 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1501153226
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1501153228
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:7
ジャンル:文芸スリラー、ミステリ
テーマ、キーワード:テッド・バンディ、犯罪者をヒーローとして扱う社会と声なき被害者、男尊女卑の社会への憤り
2023年これ読ま候補作

アメリカの歴史で最も有名な連続殺人犯(serial killer)は1970年代に全米で30人以上の若い女性を殺害したテッド・バンディ(Ted Bundy)である。これまでに何度も映像化されているので、日本でもよく知られている存在だ。

バンディが若い女性に対して行った犯罪は残酷でおどろおどろしい。だが、アメリカのメディアが当時から彼を「ハンサムで知的で魅力的な犯罪者」として報じてきたためか、その後作られた映画でもマーク・ハーモンやザック・エフロンなど「最もセクシーな俳優」らがテッド・バンディを演じてきた。こうしてバンディは神話的な存在になった。

Jessica KnollのBright Young Womenは、この殺人事件を少しでも知っている人であればすぐに「ああ、これはテッド・バンディのことだ」とわかる事件を扱っている。けれども、この本では犯人はdefendant(被告)と表現されるだけで名前は出てこない。そこには作者が意図した重要な理由がある。

テッド・バンディの事件だけでなく、最近非常に流行っている「true crime podcast(実際に起こった犯罪のルポをミステリのように連続で語っていくポッドキャスト)」でも、人々は犯罪をエンタメのように扱い、犯人をカリスマ的な主人公に仕立てあげる。けれども、そこには、明るい将来を奪い取られた被害者がいるのだ。その多くは、この小説で語られるような若い女性たちだ。彼女たちは、歴史で名もなき存在として忘れられていく。

Bright Young Womenは、社会が忘れ去った被害者の女性たちを代弁し、さほど知性も才能もない残酷な殺人犯をカリスマ的な存在に仕上げた社会に対する憤りを肌感覚で伝える小説である。

作者の目論見どおり、殺人犯を目撃したサバイバーの女性に対する男性警官の侮蔑的で懐疑的な態度、才能ある多くの女性を殺害した犯人に対して同情的な発言をした男性裁判官、センセーショナルな本を書くためにサバイバーに取り込んで利用する男性ジャーナリスト、最終的に犯人をカリスマ的な悪のヒーローに作り上げる無責任な社会に対しての憤りを感じずにはいられない。

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