作者:Kristi Coulter
Publisher : MCD
刊行日:September 12, 2023
Hardcover : 384 pages
ISBN-10 : 0374600902
ISBN-13 : 978-0374600907
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:6
ジャンル:回想録
テーマ、キーワード:Amazon、アメリカのテック業界の内情、テック業界のセクシズム、ユーモア
Exit Interviewは、作者のKristi Coulterが2006年から12年間Amazonで勤務し、最終的に退職した体験をユーモアたっぷりの文章で綴った回想録である。Amazon初期からの利用者であり、2008年末からAmazonの動向をブログなどでルポしてきた私は、AudibleとKindleの両方を予約購入して楽しみにしていた。
最初のiPhoneが誕生したのは2007年なので、CoulterがAmazonに加わった2006年はまだテックビジネス産業早期といえる。FacebookやTwitterも誕生したばかりで、現在は巨大になったテック企業にもフロンティア精神があった。All Music Guide (現在のAllMusic)の仕事に退屈していたCoulterは、企業と一緒に成長して出世する可能性もあるAmazonに惹かれて転職した。
仕事のために夫と一緒にシアトルに移住したCoulterは解雇されてすべてを失う恐怖にさらされながら厳しい仕事をこなしていくのだが、この恐怖は経験を積んでも消えることはなく、最後の最後まで続いた。Coulterの文章は軽快で、罵り言葉だらけのユーモア本の感覚でするすると読めるのだが、作者の「いつ首になるかわからない」というストレスは読んでいてつらい。
また、Amazonの上部管理職は男性ばかりで、彼らはCoulterに「Have a backbone(信念を持ち、間違っていると思ったらしっかりと反論せよ」と言うくせに、それに従って行動したら「棘がある。怒りっぽい」と批判する。女はどのような行動を取っても批判されるというのは、私が翻訳したサラ・クーパーの『男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法』の中にも出てくるものだ。
AmazonでのCoulterの男性上司たちは彼女に近い将来の昇進を匂わせるのだが、どんなに犠牲を払っても、不可能なことを成功させても、彼らは「次の機会」をまた匂わせるだけで決してCoulterを昇進させない。ミソジニーな男性社員についてはBezos自身が公に擁護する。読んでいて、どんどん息苦しくなる。Coulterの男性の部下が彼女より高い給料を得ていることを知って愕然とする場面では、同じ経験を持つ者として感情移入しすぎて気分が悪くなってしまった。
「こんな扱いをされたのに、なぜ12年もAmazonを辞めなかったのか?」と思う読者はいるだろう。でも、Amazon以外の場所でも女性はこういった扱いを受けることが多いので、「企業ではなく、貴女に問題がある」というガスライティングを受け入れてしまいがちなのだ。私はすぐ会社に見切りをつけてしまうタイプだったので、アルコール依存症になりながらもAmazon社内で別の部署に移動して新たに努力した作者の粘り強さに尊敬の念を抱いた。私にはとてもできないことだ。
それにしても、常時混沌としていて、知識や経験よりも会社のモットー優先で新規の企画を押し通すAmazonの社風(トップのJeff Bezosから来ている)には呆れてしまった。Amazonのやっていることがどんなに馬鹿馬鹿しくても、ブルトーザーのような破壊力を持っているので誰も抗えない。
Amazonを辞めてベストセラー作家になったCoulterに対しては「良かったね」と言えるが、Amazonが嫌いでもその影響下から逃れられない私はただ悶々とするしかない。