
作者:Kirsten Miller (The Change)
Publisher : William Morrow
刊行日:June 18, 2024
Hardcover : 304 pages
ISBN-10 : 0063348691
ISBN-13 : 978-0063348691
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:7
ジャンル:現代小説、風刺小説
テーマ、キーワード:禁書、アメリカの禁書運動、アメリカ南部の保守的思想、図書館の意義、ユーモア
2024年これ読ま候補作
BeverlyとLulaはアメリカ南部のジョージア州の田舎町Troyで生まれ育ち、同じ高校でチアリーダーをし、同時期に地元で家庭を持ち、子育てを終えた。けれども、生まれつきのリーダーとして誰からも愛され、現在では公立学校の教育委員を務めている人気者のBeverlyのことを、Lunaは一方的にライバル視してきた。これまでBeverlyに嫉妬するだけだったLunaだが、ようやく彼女にもチャンスが巡ってきた。
それは、いかがわしい本や子供の心身に悪い影響を与える本を図書館から排除する禁書運動の旗手になることだ。
禁書運動によって保守からスター扱いされるようになったLulaは、自宅の前に小さな「図書館」を設置し、そこに住民が読むべき良書を入れて地元への貢献ぶりをアピールした。Lulaが選んだ推薦書は、南部の上流階級の女性のエチケット教本や南北戦争での南部の英雄たちを称える本だ。

以前からLulaが母親をターゲットにして嫌がらせをすることに辟易していたBeverlyの娘Lindsayは、深夜にこっそりとLulaの図書館に行き、カバーだけ残して本の中身を禁書の数々に変えてしまった。チャリティ組織で売れ残っていた中古本の中からタイトルだけで選んで二束三文で購入したLulaはもともと読書などしない。それを知っているLindsayは、Lulaがこの交換に気づくことはないと見込んだのだ。
この交換を知らない者がLulaの図書館から借りた本で視点を変えたり、人生を変えたりし、彼らからの口コミでLulaの図書館の読者は増えていった。
それと同時にTroyの町では新しい町長を選ぶ選挙運動が始まっていた。Beverlyは多くの人々からの要請で町長選に出馬したが、南部の過去を肯定して過去の価値観に戻りたい保守層の人気者になったLulaはBeverlyを打倒して町長になろうとする…。
作者のKirsten Millerは南部ノースカロライナ州の出身で、いつも南部が保守として描かれることを残念に思っていた。というのも、彼女の両親のようにすべての人に平等であることを心がけていたリベラルもちゃんと南部に存在するからだ。Millerが最近案じるようになっていたのが、南部の州での禁書運動だ。多くの苦情が殺到し、反対運動も起こって公立図書館や公立学校で有名な本が禁書になるようになったのだが、その禁書には呆れたことにアンネ・フランクの『アンネの日記』やノーベル賞受賞作家トニ・モリスンの本なども含まれているのだ。
禁書リストを見ると、人種差別をテーマにした本、LGBTQ関連の本、性的な要素がある本が主要なターゲットになっていることがわかる。フロリダ州の学校図書館でスティーブン・キングの作品が50作以上禁書になっていることを知ると、日本に住んでいる人にもどれほどバカバカしい状況か想像できるかと思う。
しかも、Millerがあとがきに書いているように、フロリダ州の新聞が調査した結果、フロリダでの禁書に関する何百もの苦情はたった2人から出ていたものだったのだ。その愚かさと、禁書によって読者が良書との出会いを失うことの危険さをMillerはこの風刺小説で描いている。
軽いタッチの小説で笑えるところがいっぱいあるけれど、実際には笑えないアメリカの禁書運動とその背景を描いた今年のお薦め本である。
理解しにくい部分もあるかもしれないので「読みやすさレベル」を7にしたが、いったん入り込んだらレベル6の感覚で読める読みやすさなのでお試しあれ。

