
作者:Laila Lalami
Publisher : Pantheon
刊行日:March 4, 2025
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0593317602
ISBN-13 : 978-0593317600
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:8(理解するためには、英語力だけでなく、時事に通じている必要がある)
ジャンル:文芸小説、政治小説、スペキュラティブフィクション
テーマ、キーワード:アメリカ、Totalitarianism(全体主義)、テクノロジーによるプライバシー侵害、人権の剥奪
ロサンジェルスに住むSara Husseinは、幼い双子の母であり、美術館のアーキビストとして働く専門家でもある。海外でのカンファレンスを終えてようやく帰国したSaraは、空港で待っている夫と子どもたちを待たせたくないと焦っていた。ところが、入国の時にRisk Assesment Administration(リスク評価局)の職員から足止めされ、尋問の末に拘束されてしまう。
拘束の理由は、RAAが集めたSaraのデータによるアルゴリズムで、Saraが夫を傷つけるリスクが高いと判断されたということだった。Saraのリスクの数値はボーダーラインギリギリであまり高くはなかったが、尋問の時に反論したのがいけなかったようだ。Saraは、家族と連絡が取れないままに、留置施設に送り込まれる。
RAAがリスク評価に使っているデータの多くは、Saraが睡眠の質を上げるために使っていたアプリから来たものだった。Saraにとって悪夢は不安を反映したものだが、RAAは「夫を傷つけたい暴力の衝動」と解釈しているのだ。
Saraが送り込まれた施設には同じような境遇の女性が収容されており、Saraのように最初は「評価のために21日間収容するだけ」と説明されていたが、次第に勾留の期間は延長されていく。
勾留施設は政府が委託している民間施設であり、企業が営利目的で運営している。この施設には収容されている者が知らない規則がいくつもあり、サディスティックな監視者たちが自分勝手に規則を作る。その規則を破ると家族と面会できなくなったり、勾留期間が延長されていく。そして、収容された者は無料で働かされる。こうして、Saraが収容されてから1年近くが経っていた。
疑問を口にするだけで罰を与えられたり勾留期間が延びたりするので、Saraたちは従順になっていた。だが、あるきっかけからSaraは抗うことを決意した…。
2025年の注目の新刊であるこのThe Dream Hotelを読み始めてすぐに思い出したのはカフカの不条理の世界である。そして次にPhilip K. Dickの “The Minority Report”だ。読んでいると、この理不尽さに胸が苦しくなってくる。
Saraが拘束される理由は、「いちゃもん」以外のなにものでもない。何十年も会っていない従兄弟が犯罪を犯したことや、伴侶を傷つけてしまった夢をみたことが勾留に値するリスクだとしたら、私達のほとんどがハイリスクの犯罪者予備軍ということになる。
でも、現実のアメリカでは40年近くアメリカに住み、3人の子どもを生んで育てた(子どもたちはアメリカ国籍)コロンビア出身の夫婦が、法に従って市民権を得るための申請をしていて、税金も収め、犯罪歴もないにもかかわらず、手錠をかけられて逮捕され、コロンビアに強制送還されるといった出来事が起きている。
この小説では、双子を生んだばかりでフルタイムで働く母親のSaraが、子育てと仕事を両立させるために短い睡眠の質を上げたくて「Dreamsaver」というアプリを使うわけだが、そこで集められたデータが「リスクの指数」として政府による監視として使われる。国民が選挙で選んでいないイーロン・マスクとそのチームが国民の個人データにアクセスできる現代のアメリカでは、我々のSNSでの発言や健康、睡眠、行動のデータにはもうプライバシーはない。Saraの体験した不条理は、フィクションと呼ぶにはあまりにも現実的だ。
現在のアメリカでは、移民の読者にとってはホラーよりも恐ろしい小説かもしれない。

