
作者:Aisling Rawle (デビュー作)
Publisher : Random House
Publication date : June 24, 2025
Print length : 304 pages
ISBN-10 : 0593977270
ISBN-13 : 978-0593977279
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:6
ジャンル:ディストピア小説、風刺小説、心理スリラー
テーマ、キーワード:リアリティ番組、materialism, Dystopia
主人公のLilyは砂漠にかこまれたリゾート施設(the compound)で目覚めた。そのリゾートではLilyを含めて10人の若くて美しい女性たちが次々に意識を取り戻しつつあった。誰もどのようにしてここに到着したのか記憶にないが、これが自分たちが応募したリアリティ番組のスタートであることは自覚している。
このリアリティ番組は、女性10人、男性10人が最後の一人になるまでサバイバルを競うものだが、最初はデート番組のように異なる性のカップルを作る必要がある。ただの友情、あるいはサバイバルのためのチームメイトであってもよいが、夜明けの時点で同じベッドにパートナーがいない者はbanish(追放)されるという規則がある。ゆえに、最初に誰とカップルになるのかは重要な決定になる。
疲れ果てた様子の男性出場者たちがようやく施設に到着したとき、女性出場者らはすでにゲームが始まったことを悟る。10人のはずなのに9人しかいないのだ。砂漠を横断している最中に男性ひとりが姿を消したという。それぞれの人となりを知る時間の余裕などない。自分を選んでくれそうな相手をすぐに探さねばならない…。
私は2000年ごろにスタートしたリアリティ番組「Suvivor」を連想したのだが、この本のマーケティングはデート・リアリティ番組の「Love Island」をたとえとして使っている(私は観たことがないのでわからない)。たぶんどのリアリティ番組でもそうなのだろうが、現実世界から切り離されて孤立された集団が裏切り、嫉妬、疑惑、恋心、支配欲、といった強い感情で対立するドラマを楽しむ観客の存在がある。だから観客を喜ばせるためにプロデューサーはそういったシチュエーションをわざと作り出す。この近未来ディストピア小説ではそれをさらに強化しているところがある。
なぜ現実社会とそう変わらないのに「近未来ディストピア」なのかというと、現実世界では戦争が起こっていることや、彼らがどうせこの先20年くらいしか生きられないだろうという悲観的な発言があるからだ。
最初のうちは、この切り離された環境での非現実的でクレイジーなリアリティ番組に好奇心を抱いたのだが、個人的にはとてもがっかりするディストピア小説だった。というのは、「こんなにクレイジーなリアリティ番組に出たいような現実社会どうなっているのだろう?」と興味を抱かせておきながら、まったく説明なしに終わったからだ。Lilyの浅はかな性格や物質主義にはなにかもっと大きな理由があるのではないかと期待していたのに、それもなかった。20人もいる登場人物もバラエティがあるはずなのに、いずれも個性に欠けていて深みがない。
英国でもアメリカでも今年の夏の話題作なのだが、私は納得できない思いをひきずっている。
本書そのものとは関係がないことだが、この本を読んでいて思い出したのは、アメリカ以外の英語圏の国に住む若者たちのリアリティ番組に対する情熱だ。15年ほど前にペルーの旅行中に出会ったイギリス人の若い女性が「アメリカはリアリティ番組が沢山あって羨ましい」と言うのでリアリティ番組をあまり観ていなかった私はどう答えていいのかわからなかった。この本を読み始めてすぐに思い出したのがこの若い女性である。この本の作者はアイルランドの小さな田舎町で生まれ育ったということを後で知って「なるほど」と思った。この本の物足りなさは、作者のナイーブさがそのまま残っているところにある。
深い意味を見出そうとして読むとがっかりするだろうが、夏休みに読む娯楽作品としては、仕事で疲れた夜にリアリティ番組を観るような感覚で軽く楽しめるかもしれない。

